新体制2年目の「シンカ」若者が集う元気な職場

小早川 智明 氏
東京電力ホールディングス社長

2018年3月号 BUSINESS [インタビュー]

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小早川 智明

小早川 智明(こばやかわ ともあき)

東京電力ホールディングス社長

1963年神奈川県生まれ。東京工業大学卒業。88年東電入社。神奈川支店営業部長、常務執行役カスタマーサービス・カンパニー・プレジデント、東京電力エナジーパートナー社長を歴任。法人営業の経験が長く、全面自由化された電力小売り事業を指揮し、昨年6月53歳の若さで現職に就く。

――3・11から丸7年が過ぎました。

小早川 昨年春、富岡町、浪江町、川俣町、飯舘村の避難が解除されましたが、今なお5万人以上の方が、故郷を離れて過ごされている現実があります。社長就任から半年余に延べ50日、4日に1日のペースで福島や新潟に足を運びました。浜通りを訪れるたびに社員の地道な取り組みに感謝の言葉を頂くとともに、一部の方々から「新たな信頼関係を築いていきたい」という、たいへん有難い言葉をかけて頂けるようになりました。地元と向き合い、何事もご信頼頂けるまでやり遂げる――。福島への責任を果たすことが当社の使命であり、存在意義です。

「閉じていないか、もっと開け!」

――社内取締役の年齢が52歳と8歳も若返り、社長ご自身も53歳と、最年少就任です。社内の雰囲気は変わりましたか。

小早川 昨年6月の新体制発足時に示した「ひらく」「つくる」「やり遂げる」の三つの合言葉(経営方針)は、上からの押しつけではなく、みんなで議論を重ねて決めたものです。経営層が入れ替わり、執行側は年齢も若く、何でも言いあえる、少しミスがあってもすぐに取り戻せる「ひらいた」関係になりました。

昨年8月に立ち上げた「みらい経営委員会」が、収益向上につながる未来のエネルギー事業の在り方や新たな価値を検討する場となり、取締役会のやり方も変わり、予見性が高まり主体性も出てきました。さらに、地元本位、お客さま本位、安全最優先という、当社本来の企業文化を取り戻すため、まず私自身が現地に行き、見て、聞いた上で、トラブルを起こした現場を叱るのではなく、事象を一般化、概念化して解決していくスタイルに変えました。運動量は多いけれど、現地・現物経営に転換したことは、経営の若返りを活かす意味でも良かったですね。

――三つの合言葉に込めた思いは?

小早川 「ひらく」はopenだけでなく「拓く」pioneerの意味を含む。「つくる」もbuildだけでなく「創る」creative。「やり遂げる」は、一番大切な「最後まで決意を持ってやり遂げる」意思であり、そういう人財を育てていくことです。

――「風評被害に対する行動計画」を発表し、農産品、水産品に絞った「ふくしま流通促進室」を発足させましたね。

小早川 三つの合言葉は、風評被害払拭に向けた活動にも当てはまります。事故後に閉ざされてしまった流通経路を「ひらき」、消費者の方々が福島産品に触れる機会を「つくり」、全社一丸となって、こうした取り組みを「やり遂げる」のです。役員会でも「それは閉じていないか、もっと開け!」などと議論しています。

――2020年の東京五輪に向け、今夏、Jヴィレッジの一部が再開されますね。

小早川 19年4月の全面再開を目指し、復旧工事が進んでいます。運営会社の社長は、福島県知事の内堀雅雄さんであり、私も社外取締役を務めています。子どもから大人まで賑わう「サッカーの聖地」を復活させるため、県と二人三脚で様々な取り組みに力を注いで参ります。

――発災直後のJヴィレッジを知る地元の方々は、涙が止まらないと思います。

小早川 昨年末、東京国際フォーラムで開催された「ふくしま大交流フェスタ」で、内堀知事とサッカー元日本代表の中田英寿さんの座談会を拝見しました。知事が地元出身の偉人、野口英世の言葉を引き、「人は過去を変えることはできないが、変えることができることが二つある。それは自分自身と未来だ。福島の未来に向けて一歩ずつ前へ進む」と決意を述べられ、私は深い感銘を受けました。

「起業家輩出プログラム」を開始

――昨年は「基礎固め」、今年は三つの「シンカ」に取り組むと仰ってますね。

小早川 これまでの取り組みを更に深掘りする「深化」と、それを、より高い次元で形にする「進化」の年にしたいと思います。その一つ目は福島事業のシンカ。知事の決意と同じく、私たちも福島事業を自分ゴトとして、未来に向けてシンカさせていきます。二つ目は「稼ぐ力」のシンカです。カイゼン活動は非連続の経営改革の土台であり、目下、全社で800件を超える活動をしています。現地現物重視の考え方の下、カイゼンを手の内化し、カイゼンの高スパイラルにより、廃炉・原子力作業の生産性5倍増、10倍増にも挑戦します。カイゼンの成功例としては、18年度の託送原価を16年度比で500億円削減。さらに、19年度には火力発電所のメンテナンス費用を16年度比で3割削減する計画です。福島への責任を果たす原資を捻出するため、海外を含む新事業領域にもチャレンジします。三つ目は「働き方」のシンカ。電気事業のあり方が大きく変わる中、今までのような部門縦割りの業務運営ではなく、部門を横断し、期限を明確に定めたプロジェクト組織の下で、部門・会社を超えて人財を投入することができる仕組みをつくります。

――「1F廃炉」は50年以上の長い道のりです。「若い力」が必要です。

小早川 当社にとって最も重要な資産は人財であり、「みらい」に向けた新たな価値創造の観点から、従来の「どうやるか」から「何をやるか」への発想の転換が不可欠と考えています。より主体的な「人財」を育成するため、昨年10月「稼ぐ力創造ユニット」を新たに設置し、「社内起業家になりたい社員」向けの研修や、新規事業アイデアを持つ社員向けの「起業家100輩出プログラム」も開始しました。そこから、3年後に約20件の事業化を目指しています。

学生にもわかりやすいと評判の廃炉情報誌「はいろみち」

――若年層を意識した廃炉情報誌「はいろみち」(昨年4月創刊)が、学生にも分かりやすいと評判です。16年度から始まった1Fでのインターンシップ(1週間の現地研修)に参加した福島高専生(いわき市)の入社が決まったそうですね。

小早川 嬉しかったですね。1F廃炉は超長期のプロジェクトであり、高専生向けのインターンシップも人財確保の一環です。胸が熱くなったのは、県内で初めてスーパーグローバルハイスクールに指定された双葉未来学園(広野町)の初の卒業生2人が、大震災を乗り越え、当社に内定したこと。町長さんも喜んでくれました。道は非常に険しいけれど、視界が開けてきました。私は未来に向かって、若者が集う元気な職場を作りたい。

(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)

   

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