文科省が「美人官僚」を人身御供

天下り斡旋を暴かれて、「森友」に嵐が移るのを待ちつつ次官候補を温存し、組織防衛を画策。

2017年4月号 POLITICS

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人事課長を経験し処分が避けられない藤江陽子審議官と中岡司文化庁次長

Photo:Jiji Press

「このまま森友学園に国会の関心が移りっ放しだといいんだが……」

小学校開設に伴う国有地払い下げ問題で揺れる学校法人「森友学園」(大阪市淀川区)の行方を固唾を飲んで見守っているのは、組織的な天下り斡旋問題で集中砲火を浴びた文科省幹部たち。安倍晋三首相とともに財務省や国土交通省など他省が被弾した国会質疑を横目に「他人の不幸は蜜の味」を噛み締めていることは想像に難くない。

2月7日に歴代人事課長8人が国会の集中審議でつるし上げを喰らい、白旗を掲げた文科省は、満身創痍かと思いきや、どっこい組織防衛に向けたダメージコントロールと出口戦略を密かに模索している。

人身御供を差し出して、組織の傷口を最小限に収める――。文科省首脳陣が描く企みはこんなイメージだろう。では、そのスケープゴートは誰なのか。ヒントとなったのは、同17日の衆院予算委員会での光景だ。慶応義塾大学への元幹部の天下り疑惑をめぐり、元幹部を紹介した人事課OBの嶋貫和男のほか、引責辞任した前事務次官の前川喜平、当時の人事課長で現在審議官の藤江陽子が参考人として呼ばれ、部下から報告を受けたことを認めたが、カギを握るのがまさにこの2人。とりわけ注目されるのが藤江の存在だ。

前次官が抜擢した人事課長

逃げ切りそうな藤原誠初等中等教育局長

Photo:Jiji Press

伯井美徳大学入試センター理事

Photo:Jiji Press

文科省の調査班が同21日に公表した中間報告書で、慶応事案については、嶋貫が「自分の判断で紹介した」と証言し、人事課の関与が明確でなかったことから、前川ら2人の国家公務員法違反は認定されなかった。しかし中間報告全体の行間を読めば、文科省の意図は明白のようだ。「前川の“寵愛”を受けた藤江の首を差し出して組織を守る」と文科省職員は断言する。

省内でも美人キャリア官僚として知られる藤江は2015年8月、傍流の男女共同参画学習課長からエリートコースの官房人事課長に抜擢されたが、その藤江を引き上げたのが文部科学審議官の前川だった。当時は「もっと重量級の人材を人事課長にすえるべきだ」といった反発や嫉妬もあったが、前川はまったく意に介さなかった。

かつて直属の上司と部下の関係でもあった両人をめぐっては、宴会終了後に前川が路上でスカート姿の藤江を抱きかかえたままガードレールを跨ぐ姿が目撃され、型破り官僚として知られる前川の武勇伝の一つとして省内の一部で語り継がれているが、そんな誤解を招きかねない関係が抜擢人事の背景にあったと勘ぐる向きも少なくない。

その藤江は前川の指示を忠実に守り、違法な天下り斡旋に次々と関与していく。違法認定された中京大学をめぐる天下りでは、藤江が前川から同大の採用条件を調べるよう密命を受けるなど、前川─藤江ラインの絆は固い。内閣府の再就職等監視委員会と文科省などが違法認定した27件のうち、藤江の関与は少なくとも5件に及び、歴代人事課長に比べても多い。3月末の最終報告書の公表に伴って打ち出される処分では、厳しい処分は避けられない見通しで、省内では早くも藤江の送別会の日程調整が進められているという。

では、藤江にペナルティーを科す代わりに誰を守るのか。

天下り規制が強化された08年から今回の問題までの歴代人事課長は計8人。文部科学審議官の小松親次郎(07年7月~09年7月)、高等教育局長の常盤豊(09年7月~10年7月)、研究振興局長の関靖直(10年7月~12年1月)、文化庁次長の中岡司(12年1月~13年7月)、大学入試センター理事の伯井美徳(13年7月~14年7月)、藤原章夫(14年7月~15年8月)、藤江(15年8月~16年6月)、豊岡宏規(16年6月~17年1月)。このうち、藤原と豊岡はすでに処分されており、天下りの斡旋が本格化したころの藤江がターゲットにされるのも自然な流れといえる。

入試改革関与で明暗

人事課職員が関わった嶋貫による斡旋が始まったのは、09年7月以降のため、監督責任が生じる常盤以降は全員「嫌疑なし」とはいえず、特に脱法システムが完成した14年前後の伯井は最も危ない。ただ、文科省内では「伯井はギリギリセーフ」との観測が根強い。

中間報告書で、嶋貫を学長予定者とした大学設置認可をめぐる案件について、保秘対象となる審査途中の情報を部下からメールで報告を受けた伯井が、脱法行為に抵触するとして嶋貫には送信しなかった経緯がわざわざ明記されているからだ。

一方、この案件で人事課職員に対し、審査途中の情報を提供するとともに認可に向け指南をしたとされる中岡については、厳しい処分が下される見通しだ。

明暗を分けたのは、文科省発足以来の大改革である高校と大学の入試をめぐる改革(高大接続改革)への関与度の濃淡にあったと囁かれている。伯井は現在、大学入試センター理事として改革のキーパーソンであり、小松、常盤も大学側との折衝や国会対応などで欠かせぬ存在だ。

厳しい処分が想定される中岡は文化庁の京都移転対策の中心人物だが、左遷されても文科省全体にそれほど影響はない。藤江も高大接続と初等中等教育局を担当するが、ほぼ10年に一度の小中学校の次期学習指導要領改訂作業は2月でほぼ終了しており、同局では“ポスト藤江”は織り込み済みの模様だ。

このほか、不可解なほどプロテクトされたのが前官房長で初等中等教育局長の藤原誠だ。中間報告書によると、少なくとも3つの事案で登場し、大学などから文科省OBの求人依頼を受けた際には、いずれのケースでも先方に嶋貫を紹介している。ただ、ヒアリングでは「記憶にない」などと回答し、逃げ切りに成功している。次官候補の藤原に傷をつけないよう配慮したかのような中間報告書について、文科省の中堅職員は「報告書の書きぶりや編集に不自然さを感じない職員はいない。ある意味、露骨だ」と吐き捨てる。

国会では歴代幹部たちが弱々しい声色で反省の言葉を口にし頭を低くするが、それは砂嵐が止むまでの単なるポーズだ。3月末に出される結論ありきの最終報告と関与した職員の見せしめの処分だけで収束するほど世間は甘くない。(敬称略)

   

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