「ふるさと納税」サイトの女王・須永珠代

我が物顔の「ふるさとチョイス」にメスを入れない限り、愚劣な高額返礼品競争が延々と続くだろう。

2017年4月号 BUSINESS

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トラストバンクの須永珠代社長(同社HPより)

安倍政権が唱える「地方創生」の看板政策として、持て囃された「ふるさと納税制度」が曲がり角に立たされている。「都会で暮らす地方出身者の恩返し」という触れ込みが大当たり、2015年度の寄付総額は前年度比4倍増の1600億円を突破した。各自治体の寄付金集めに拍車がかかり、高価な返礼品の競い合いがはじまった。

特産の高級和牛を贈る宮崎県都城市の42億円をトップに、上位20自治体が寄付総額の25%を占める寡占状況となり、特産品を持たない自治体との格差は広がるばかり。ついに高市早苗総務相が「今国会中に有識者を交えて返礼品のあり方を再検討する」と、是正に乗り出した。

自治体関係者が舞台裏を語る。「きっかけは2月上旬に地方紙が一斉に報じた共同通信の全国調査。16年度は総額2千億円に達する勢いですが、返礼品の調達費が49%も跳ね上がり、自治体の手元に残る寄付額は17%増にとどまる由々しき事態。全自治体の7割以上が高額返礼品の見直しを訴えていました」

濡れ手で粟の急成長

大手メディアは、高価な返礼品を餌に寄付金集めに走る自治体のモラルを嘆くばかりで、自治体間競争を助長する「ふるさと納税」運営サイトの行状を見落としている。とりわけ、運営サイトの王者「ふるさとチョイス」は「総務省がお墨付きを与えた唯一のサイトで、返礼品競争を煽り、ぼろ儲けしている」と、自治体関係者はぶちまける。

「ふるさと納税の市場規模は2兆4千億円あるんですよ。昨年度の1600億円なんてわずか7%にすぎないんです」

昨年11月、佐賀県上峰町のシンポジウムで怪気炎を上げる女社長の姿があった。彼女こそが、返礼品をPRするポータルサイト「ふるさとチョイス」を運営する「トラストバンク」(本社東京)の須永珠代氏(43)だ。

創業4年のベンチャー企業ながら、1100もの自治体から寄付金のクレジット決済や返礼品の申し込み業務の委託を受け、濡れ手で粟の急成長を遂げた。

「自治体のPR事業をオプション契約で請け負い、寄付額の1%~5%を自治体から受け取る成果方式。寄付総額の80%は、ふるさとチョイス経由と囁かれる有り様だから、手数料収入は年間数十億円だろう」と、同業他社は羨望の眼差しだ。

自治体へのトップセールスに奔走する須永社長は、立志伝中の女性だ。大学卒業後、地元群馬の塾講師や自動車ディーラーに就職したものの、1年後に一念発起して上京。派遣社員やアルバイトの職を転々とした後、たどり着いたのがIT関連企業。そこでウェブ事業とマーケティングのノウハウを仕込まれ、ふるさと納税の返礼品を通販サイトのように扱うビジネスモデルを思いつき、徒手空拳で起業。華々しい躍進から、16年には日経「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」大賞の栄冠に輝いた。

彼女の名を一躍有名にしたのは、高額所得者向け返礼品の開発だ。起業翌年の13年、佐賀県玄海町に「寄付100万円プラン」を提案。毎月3万円相当の特産品を12カ月にわたって贈る返礼プランが大ヒットし、玄海町は前年実績の60倍(2億5千万円)の寄付集めに成功した。須永氏と付き合いの長い自治体幹部が皮肉交じりに語る。

「財政の苦しい過疎のまちに莫大な寄付金をもたらす『須永メソッド』は衝撃を与えたね。“須永組”と呼ばれる長崎県平戸市

や山形県天童市などには社長自ら足を運び、特産品の開発や売り込み方を伝授して寄付額上位に押し上げた実績がある。地場産業がよみがえり、移住者も増えたと評判で、よその首長から『あの女社長を呼べ』と引き合いが止まらないようだ」

実際、「須永メソッド」を武器に女社長は売り込みに余念がない。昨年、トラストバンクと契約した自治体職員は明かす。

「現在、全国7ブロックで自治体職員向けの『研修会』を開いています。講師役は社長が手塩にかけて育てた“須永組”の職員たち。『乗り遅れるな』と後発組の我々にハッパを掛けていました」

菅官房長官に取り入る

別の自治体関係者が言う。

「須永社長が口にしたがらないふるさと納税の仕掛けがあります。寄付金の上限範囲なら2千円の自己負担を除く全額が住民税などから控除され、寄付者に返ってくる。要するに、寄付者が住む自治体の税収が減り、寄付先にその分が流れ込み、これが故郷の自治体財源や返礼品の調達費に回る仕組みです」

総務省は返礼品購入に野放図な税金が投じられているとして、2年前から換金性のある高価な返礼をやめるように自治体に通知してきた。ところが、「実際に我々をコントロールしているのは総務省ではない」と、東海地方の自治体関係者は言う。

「ふるさとチョイスからお達しが来るんです。『うちは総務省の指導に従い家電やパソコン、商品券を扱わない』と。ほとんどの自治体が、その言う通りに返礼品をリニューアルします」

その一方で、お目こぼしもあるようだ。大阪府泉佐野市では、格安航空会社「ピーチ」(本社同市)の航空券に交換できるポイントカードがヒット。同市議会議事録によると、商品券と同等のはずのポイントカードは「総務省と協議しているふるさとチョイスを通じ、総務省にもご理解をいただいている」と、市幹部が答弁している。同市は近畿トップの寄付金を集めるコアな「須永組」。総務省の覚えがめでたい須永社長がお手盛りの制度運用をしている疑いを免れない。

さらにきな臭いのは、総務相時代にふるさと納税を鳴り物入りでスタートさせた菅義偉官房長官に取り入る須永氏の動きだ。

「官邸に出向いて菅長官と面会したことを披露しているし、長官の地元横浜市でふるさと納税のイベントを開催し、長官と共にほほえむ写真がネットサイトで公開されている。政治的な働きかけが心配だ」(官邸筋)

須永氏の「暴走」をさらに案じる向きもある。

「内閣府の地方創生加速化交付金事業を認められた北海道上士幌町は、この資金をトラストバンクに投じ、ふるさと納税の関連事業を任せている。須永氏は国の交付金でも儲けています」

我が物顔の「王者サイト」にメスを入れない限り、愚劣な高額返礼品競争が続くだろう。

   

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