「ビジネス版グーグル」へ経済ニュースで米国挑戦

梅田 優祐 氏
ユーザベース代表取締役社長・共同経営者

2017年4月号 BUSINESS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 阿部重夫

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梅田 優祐

梅田 優祐(うめだ ゆうすけ)

ユーザベース代表取締役社長・共同経営者

コーポレイトディレクションにて製造業、商社を中心とした全社成長戦略、再生戦略の立案・実行支援、食品メーカー等のBPRを中心に従事。その後、UBS証券投資銀行本部にて、事業会社の財務戦略の立案、資金調達支援、自己勘定投資に従事。2008年、ユーザベースを設立。産業、企業分析のための経済情報プラットフォーム「SPEEDA」とソーシャル機能も兼ね備えた、経済ニュースプラットフォーム「NewsPicks」を展開。東京、シンガポール、香港、上海、シンガポールに拠点を構える。

写真:吉川信之

――キャッチフレーズが「もっと自由な経済紙を」。私の古巣(日経)には相当挑戦的に聞こえますね(笑)。

梅田 2008年の創業前は証券会社にいて、メディア業界の人間だったわけではないんです。一人のビジネスパーソンとして毎日、企業の財務データを分析したり、経済ニュースをとったりしていたのですが、非常に不便でした。非近代的、非合理的と感じていたので、ビジネスの世界でもグーグルのようにシンプルで誰でも使える情報インフラをと思ったのがスタートです。

――とっかかりはBtoBから?

梅田 ええ、まずプライベート・エクイティー(未公開株)ファンドやコンサル・ファームといったプロ向けのニッチな領域で、財務データやその付随情報を提供するサービス「SPEEDA」からです。それがわれわれのコンテンツの三本柱の一つで、あとは経済ニュースと人の情報です。経済ニュースは創業以来、必ずやらねばと思っていたのですが、競争が激しく、大企業が占めている市場で、様子見でした。スマートフォンの登場でメディア業界の構造が劇的に変わったので、スマホをベースに12年に参入しました。それが「NewsPicks」です。

課金ユーザーが3万人超す

――現状は企業・業界情報と経済ニュースの二本立て。見た目はブルームバーグをめざしている?

梅田 いえ、めざすのは「ビジネス版のグーグル」でしょうか。情報インフラである限り、既存のプラットフォームと競合するところはありますが、ブルームバーグの主戦場であるトレーダーのセカンダリー市場は参入すべき領域だとは思っていません。それより事業会社や金融業界のプライマリー側にいるビジネスパーソン向けのインフラですね。NewsPicksは一般ビジネスマン向けですから、トレーダーが必要とする速報性や売買機能をカバーしていません。

――ユーザーの年齢層は?

梅田 30代がマジョリティーで、次が20代、その次が40代です。男女比率は3対1、比較的IT系の人が多いですが、伝統的な企業の部課長やニューリーダーの方々に使ってほしい。

――16年12月決算でNewsPicksが黒字化したそうですね。

梅田 はい、有料課金ユーザー(月1500円、iOSのみ1400円)が約3万2千人に達しました。ウォールストリート・ジャーナル(日本語版)など他社有料コンテンツの読み放題と、うちの編集部のオリジナルコンテンツ「特集A」が売り物です。「週刊ダイヤモンド」や「週刊東洋経済」がやっていたことをスマホに置き換えたものですね。例えば「東芝崩壊」をテーマに毎週月曜に始まり、1日1本で7本構成です。しっかり取材してお金をかけてつくったコンテンツに、ユーザーがちゃんとお金を払うという仕組みにしたかった。

――編集チームの構成は?

梅田 校正も入れると15名ほどですね。基本的には取材経験者ですが、元フリーで来ている人も多い。われわれのめざすものをつくるには、やはり紙媒体の経験があると強いですね。しっかりと基礎訓練を受けた人はこうも違うのかと実感しました。

新聞を意識し購読料の3分の1

――月1500円という価格設定は、新聞の購読料を意識しました?

梅田 紙の新聞が4千~5千円の購読料を徴収していた時代が、一番きれいに伝統的メディアが繁栄していた時代だと思っています。スマホ時代も同じような経済性にしなければならないというのがベースです。たまたま「新聞は流通や印刷のコストを除くと、純粋なコンテンツのコストは30%」という記事を見ました。5千円の30%は1500円、デジタルであれば、1500円の経済性を確立できれば、紙の時代と同じようなビジネスモデルを築けると思っての価格設定です。

――ネット媒体はどこも課金で苦労します。広告モデルも考えました?

梅田 ええ、でも、有料課金をベースにしていくのが大前提でした。食べログやニコニコ動画などを見ていると、(課金が定着するのに)時間がかかるので、10年スパンで継続するのが大切です。時間をしっかり稼ぐためにも、広告をハイブリッドでやる必要があった。その広告も価格競争を避け、ちゃんとコンテンツ部隊をつくって製作する記事広告に限っています。グーグルのアドネットワークとか、PV(ページビュー)単価で決まっていくものは一切入れませんでした。

――記事と広告の利益相反は?

梅田 佐々木(紀彦)編集長との約束でもあるのですが、そこは絶対にウォールを設ける。法人向けSPEEDAが利益の大半を生んでいますが、経営上影響を与えそうな記事を変更させる強制力を経営者は持たない。どういうコンテンツが出るかは、私も朝開いてみるまで分からない。

――4月から海外展開に自ら挑戦するとか。SPEEDAで?

梅田 いえ、NewsPicksです。ニューヨークにオフィスを構え、全部英語で、ゼロからのスタートです。まずプラットフォームづくりで、当初はオリジナルコンテンツはやりません。立ち上げは私がコミットしますが、基本はローカルで運用できるようにします。SPEEDAはすでに香港、シンガポール、上海などに拠点があり、アジア「ナンバー1」をめざしています。

――昨年10月の株式公開をホリエモン(堀江貴文氏)に批判されましたが。

梅田 たまたま会って「スモールIPOですみません」と言いましたが(笑)、堀江さんの持論は、時価総額200億円ぐらいでIPOした企業は大成しない、もっと深くしゃがんでから跳べ、というものです。でも、IPOが早かったとは思わない。ベンチャーキャピタルからの圧力もありませんでしたし、5年後を見てくださいとしか言いようがないですね。

   

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