「アベノミクス」の新市場「機能性表示食品」に喝!

宮島 和美 氏
ファンケル社長 日本通信販売協会理事

2017年4月号 LIFE [インタビュー]
聞き手/本誌編集委員 和田紀央

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宮島 和美

宮島 和美(みやじま かずよし)

ファンケル社長 日本通信販売協会理事

1950年神奈川県生まれ。成城大学卒業。ダイエーの常務執行役員を経て、01年義兄の池森賢二氏が創業したファンケルに転じ、07年社長、08年会長、日本通信販売協会会長などを歴任。池森氏の会長復帰に伴い、13年より再び社長を務める。

写真:田中淳子

――健康にどんな効果があるかを食品に表示できる「機能性表示食品」制度がスタートして2年が経ちました。

宮島 1991年に制度が始まった「トクホ」(特定保健用食品)では、国(消費者庁)が効果や安全性を厳しく審査し、ヒトへの試験も必要なため、申請から許可まで億単位の費用と平均4年の月日を要しました。これに代わる「機能性表示食品」では国の安全審査がなくなり、企業の責任において食品の機能を消費者に分かりやすく表示できるようになった。結果、初年度の届け出は約300件、2年間で約750件に拡大し、700億円規模の新市場に成長しました。

――米国に成功例があるそうですね。

宮島 米国では94年に「栄養補助食品健康教育法」が制定され、サプリメント市場は20年間に4倍の4兆円市場に成長しました。政府の規制改革会議が、米国を模した「健康食品の機能性表示」を提唱し、2013年に安倍総理が、その「解禁」を宣言しました。機能性表示食品は、総理のトップダウンで実現した規制緩和の「成果」なんです。

トクホと違って国の審査がない届け出制だから、「ストレス緩和」や「目の健康」「質のよい睡眠」に関する効能表示も認められます。当社の第1号機能性表示食品「えんきん」は「手元のピント調節力に」という表示に、眼鏡をかけて新聞を読む中高年のイラストを添え、「手元の小さな字が読みにくい」などのメッセージを付し、消費者の心をつかむヒット商品になりました。

スマホ『労』眼」向けの新商品

――初年度「えんきん」の売り上げは35億円で、今も伸びているそうですね。

宮島 「えんきん」のシリーズ製品として、20~40代の「スマホ『労』眼」が気になる方のための「スマホえんきん」を3月17日に発売しました。「眼の調節機能」の衰え(遠くのものも、近くのものもピントが合わずピンボケに見える)は、老眼が始まる40代以降に多かったのですが、スマホやPCの普及で20代後半など若年層に増えています。当社はこれまで13の機能性表示を取得し、8製品を投入しましたが、新年度は「大人のカロリミット」のリニューアルや「関節」に関する効能表示による新たなヒット商品を目指します。

――機能性表示食品は幅が広いですね。

宮島 受理数の55%はサプリメント以外の加工食品が占めています。機能性表示により市場が活性化したのはヨーグルトです。雪印メグミルクの「ガセリ菌SP株ヨーグルト」シリーズは、ヨーグルトで初めて「内臓脂肪を減らす」と機能性を表示し、カップ型の売上高が6倍に伸びたそうです。キリンのノンアルコールビール「パーフェクトフリー」は、難消化性デキストリン(植物繊維)の効能により、「脂肪の吸収を抑える!」「糖の吸収をおだやかにする!」と表示し、ヒット商品になりました。「血中コレステロールが気になる方へ」と表示する、カゴメのトマトジュースも、出荷量が以前の3倍になったと報じられています。

――生鮮食品の届け出もありますね。

宮島 生鮮食品の機能性表示は、外国にも例がない取り組みです。「骨の健康に役立つ」と表示するJAみっかびの温州みかんなど5件が受理され話題を呼びました。

――米国市場のように成長しますか。

宮島 届け出数は増えてきましたが、アベノミクスの成長戦略としては推進力不足です。日本通信販売協会は、昨年12月の規制改革会議で〈「機能性表示食品」制度を世界最先端に〉と題するプレゼンを行い、解決すべき三つの課題を申し上げた。一つは「機能性表示の対象成分が限定されている」こと、二つ目は「健康な人のデータしか使えない」こと、三番目は「届け出から公表までの期間が不透明で時間がかかること」です。

企業にとって最も困るのは、届け出から公表までの期間が不透明で新製品の販売計画が立てられないことです。ちなみに当社の「えんきん」は届け出から公表まで14日で済みましたが、公表まで200日を超えるケースが多発し、中には350日もかかった例もある。消費者庁は「届け出だから審査はしない。書類の確認だけ」と言いますが、実質的な「事前審査制」になっています。

アベノミクス成長戦略を加速すべき

――なぜ、300日もかかるのですか。

宮島 まず届け出資料の量が多い。消費者庁が指摘事項と共に書類を差し戻すたびに2~3カ月の待ち時間が加わります。そもそも消費者庁は人員と予算が足りず、企業側にはガイドラインの理解不足や誤字脱字、記載漏れなどケアレスミスが目立ち、お互いに試行錯誤の面がありました。

――日本通信販売協会は規制改革会議に「大改革」を提案していますね。

宮島 我が国の保健機能食品制度は「個別許可型のトクホ」と「自己認証型の栄養機能食品」と「事前届出制の機能性表示食品」の三本立てで非常に分かりにくい。消費者にとって小難しい制度を見直し、再編すべきですね。併せて、世界各国が制定するサプリメント法を我が国も制定し、国産サプリに人格を与えてほしいと思います。アジア各国はそれぞれ健康食品の輸入制限を課しており、国産サプリの輸出促進には国内における法的位置づけが必要になります。

――抵抗勢力の消費者庁が動きますか。

宮島 サプリメント法ができるのは、私が仕事を辞めて10年ぐらい経ってからかもしれませんね(笑)。消費者庁は人手が足りないのですから、時間のかかる届け出書類の確認作業を外部に委託したらどうかと提案しています。政府関連機関への委託でも構わないと思うのですが、まだ動く気配がありません。

――機能性表示の実現は、アベノミクス規制緩和の数少ない成功例。首相に「喝」を入れてもらわないとダメですね。

宮島 ガイドラインや届け出項目の見直し程度の小改革では新市場は大きく育たないでしょう。現状の隘路を「見える化」し、いつまでに何を改善するのか工程表を作成すべき。アベノミクスの成長戦略をもっと加速させるべきです。

   

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