「吏道の廃れ」嫌われる力を失った財務省

玉木雄一郎 氏
民進党衆議院議員

2017年4月号 POLITICS [インタビュー]
聞き手/本誌編集長 宮嶋巌

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玉木雄一郎

玉木雄一郎(たまき ゆういちろう)

民進党衆議院議員

1969年生まれ。東大法卒、大蔵省入省。米ハーバード大留学。大阪国税局総務課長、財務省主計局主査を歴任。2009年衆院初当選(香川2区、当選3回)。昨秋、民進党代表選に名乗りを挙げた。

――学校法人「森友学園」が国有地を安く購入できるよう、国会議員や地方議員に働きかけをした事実が明るみに出ました。

玉木 近畿財務局は鑑定評価額9億5600万円の国有地を、埋設ゴミ撤去費など8億2200万円を差し引いた1億3400万円の格安で売り、しかもお金がない森友の要求を呑んで10年分割払いにした。財務省は「適正な処分」を強調するけれど、過去3年に随意契約で売却した国有地約700件のうち、売却価格を「非公表」としたのは、この1件だけ。「やばい」と思ったから隠したのです。こんなウルトラCのリスクを、地方財務局が負えるわけがない。売却交渉記録の開示請求を、理財局長は「契約成立により廃棄した」と突っぱねていますが、これを隠ぺいと言わずして、何と言う。

――首相は「私や妻、事務所が関与していれば、首相も議員も辞める」と答弁しています。

玉木 首相は、昭恵夫人は「私人」と言うが、誰もそう思わない。首相夫人には5人の政府職員が付き、夫人が森友学園の幼稚園で講演した際にも公務員が随行していた。そもそも事の発端は「瑞穂の國小學院」の名誉校長を首相夫人が引き受け、学校建設の寄付金集めに「安倍晋三記念小学校」の名前が使われたことでした。首相自ら国有地の払い下げに関わった政府職員や所属議員を調査し、国民に向かって説明責任を果たすべきです。

――政治家に頼んで財務省に圧力をかけると、国有地を安く払い下げてもらえる。そんなことが罷り通ったら、国民は誰もまともに納税しなくなります。

玉木 時価から8億円の値引きは「国の財産は適正な対価なくして譲渡してはならない」という財政法9条に反する背信行為であり、「吏道の廃(すた)れ」です。

消費増税先送りや法人税減税などで官邸の軍門に降った財務省は、国有地の払い下げでも筋を曲げるようになったのか。アベ政治は金融秩序と財政規律を、いかに崩していくかを競い合うような面があり、そのユルミが地方組織に及び、綱紀の乱れを引き起こしたとも考えられます。

93年に大蔵省に入った私の初任地は主計局でした。当時の幹部から「政治家と各省は常に予算を増やせと言ってくる。抑制的な財政規律を働かせるのは我々だけ」「国民から血税を集める強大な権限を与えられた我々はノブレス・オブリージュを貫き、財政の本筋を曲げるな。政治家から悪者にされることを恐れるな」と習ったものです。

――払い下げを強行した時の財務次官は、第1次安倍内閣の首相秘書官だった田中一穂氏、理財局長は首相と同じ山口県出身の迫田英典氏(現国税庁長官)であり、共に首相に近い人です。

玉木 我々は当時の決裁権者の参考人招致を求めています。

内閣人事局に人事権を握られ、首相官邸に覚えのめでたい人しか次官、局長になれないとしても、「総理、お言葉ですが、それは間違っています」と、首を賭ける覚悟で正論を述べる侍スピリットを取り戻さない限り、財務省は立ち直れないと思います。「安倍一強」のもとで財務省は「嫌われる力」を失っているのです。

   

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