バブルを膨張させたのは国交省の怠慢。怒りの矛先は大手アパートメーカーに向かっている。
2017年4月号 BUSINESS
「このままでは80年代の不動産バブルやリーマンショック前のプチバブルの二の舞いになる。泥沼に陥る前に手を打つべき」
金融庁や日銀が目の敵にするのが、急増するアパート・マンション建設向け融資(アパートローン)だ。
数字が異常な膨張を物語る。日銀が2月9日に発表した「貸出先別貸出金」によれば、2016年の銀行・信用金庫による不動産融資は対前年比15・2%増とバブル期並みとなり、不動産業向け以外の伸び率は低水準に留まった。
括目すべきは、不動産融資の内訳だ。増加分の約3割を1件あたりの融資額が小さい「個人による賃貸業向け貸出」(アパートローン)が占めているのだ。「少子高齢化が進んでいるのに、地方でも単身者向けを中心としたアパート建設ラッシュが発生したが、借り手はどこにいるのか?」(メガバンク幹部)
15年1月の相続増税が、アパートバブルのはじまりだ。相続税の非課税枠が引き下げられたことから、地主・富裕層が一斉に節税に走り出した。早い話が、1億円の現金のままだと最高税率55%の相続税の対象となるが、もしこの1億円でアパートを建設すると、相続税評価額が半分の5千万円程度に下がる。
税制改正により相続税の課税対象者は増税前に比べ急増し、15年の東京局管内における課税対象は12・7%(対前年比5・2%増、国税庁統計)となった。「アパート・マンションローンを利用するオーナーのほとんどが土地持ちの富裕層。資産運用と節税対策をセットにした実需を伴わない貸し出しが急増している」と銀行幹部はいう。
これをエスカレートさせたのが、16年2月の日銀のマイナス金利政策だった。アパートローン利用者の大半は土地持ちの資産家だから、融資判断が極めて容易。このため金融機関が殺到し、「いまや当初固定10年型の貸出金利で1%を切る融資は当たり前になっている」(メガバンク幹部)。
これに便乗した住宅メーカーが都市部に住む高齢の資産家を狙って「節税になり想定利回りが高い。ほぼゼロ金利で融資が受けられる」と、アパート建設ブームを囃し立てたのだ。
不動産バブルの発生を恐れる金融庁は昨秋、金融機関のアパートローンの実態調査に乗り出した。結果、アパートローンの貸し出しは不動産事業者が金融機関に持ち込むケースがほとんどであることが判明。「金融機関は住宅メーカーの言いなりになって融資をつけているだけ。顧客ニーズや貸し出し実行後のアパート経営が上手く回っているかのモニタリングはおざなりになっている」(幹部)と、金融庁を憤慨させた。
日銀も昨年10月に発表した「金融システムレポート」でアパートローンに警鐘を鳴らした。一部地域で賃貸住宅の空室率が高まっていることを踏まえ、地銀や信用金庫に入口審査と途上与信の強化を求めた。目下のところは晩婚化・高齢化で貸家戸数が増加しているが、20年以降は本格的に世帯数の減少が見込まれ、空室率が跳ね上がるのは目に見えている。
「金融庁の怒りの矛先は、金融機関より、むしろ大東建託、レオパレス21、積水ハウスグループ、東建コーポレーション、大和リビング、旭化成不動産レジデンスといった建設戸数が多い大手アパート業者に向かっている」(メガバンク幹部)という。
アパートオーナーと住宅メーカーの契約は、建築から入居者募集、管理といった手間がかかる多岐にわたる業務をアパート業者が一括して請け負う「サブリース契約」がほとんど。
オーナーがサブリース業者に一定の手数料を支払い、最長で35年間程度の長期契約と一定期間の家賃収入を保証する仕組みになっている。
実は、アパート建設バブルが収まらない根本要因は、これらのアパート業者の多岐にわたる業務のうち、アパート建設業務の利益率が異常に高いことに起因する。「建設業務の粗利益率は主要メーカーでは30~40%に達する。その一方で、管理業務やその他の業務の利益率は一ケタが相場で儲からない」(住宅メーカー関係者)とされる。したがって、これらのアパート建設業者は、利益率の高いアパート建設業務を何よりも優先する。「アパートを建てて金融機関に融資をつけさせれば後は知ったことではない」と、バブルの宴に踊っているのだ。
問題は物件周辺の家賃相場が下落した場合だ。業者の都合で家賃の減額や契約解除をオーナーに強制的に認めさせることもできるため、トラブルになるケースが続出している。国土交通省は昨年9月、契約時に「将来的に家賃が減る恐れがある」との説明をするよう業者に義務付けたが、これしきのお達しでバブリーな営業攻勢が止まるわけもない。
そのうえ、オーナー(債務者)が返済困難な状況に陥った場合、住宅資産のみならず自らの保有資産まで強制的に換価されてしまうという由々しき事態も珍しくない。高齢化が進む過疎地のアパートでは空室率が高まり、ローンを返済できず資産を失うオーナーもいるという。
事態の深刻化を裏づけるように、2月22日には、10年間家賃が変わらない契約でアパートを建てたのにもかかわらず、6年後に減額されたとして、愛知県の男性(80)がレオパレス21を相手取り減額分の支払いを求める訴訟を名古屋地裁に起こした。100人以上のオーナーが一斉提訴を検討していると報じられ、レオパレス21の株価は急落した。
ある金融庁幹部は「結局、悪いのは国交省だ」と吐き捨てる。サブリース契約の問題が明るみに出たのはリーマンショック後の2010年頃に遡るが、国交省は抜本的な対策を怠った。サブリース業界の自主規制団体「サブリース事業者協議会」はあるものの、未加入の大手業者も多いとされており、業界の実態は「監督官庁である国交省ですらよく掴めていない」(同幹部)という体たらくだ。
首相官邸の覚えがめでたい森信親金融庁長官は、「マンションローンバブルを膨らませたのはマイナス金利ではなく、国交省の怠慢だ」と怒りを募らせている。金融庁が金融機関に大号令をかけ、アパートローン・バブル潰しに動く日が近づいている。