2017年4月号 POLITICS
「小池百合子劇場」のヒートアップが止まらない。
劇場最大の見せ場は豊洲問題。総事業費約5884億円を見込む豊洲新市場は、開場の見通しが立たないままだ。こうした中で注目されるのが、豊洲の汚染された工場跡地を東京都が購入した問題で当時の石原慎太郎都知事の責任を問う「豊洲用地取得の公金返還請求訴訟」の行方である。
裁判は2012年5月、豊洲への移転に反対する仲卸業者ら41人が都と石原都知事(当時)を相手に起こしたもの。すでに提訴から5年近くが経つ。11年に約578億円という高額で豊洲の汚染された土地を購入したのは「地方自治法や地方財政法等に違反する」として、都に対し石原氏に約578億円の返還を請求するよう求めている。ちなみに都が東京ガスから購入した土地は最終的に37.3ヘクタールで、トータル約1859億円(1㎡当たり約50万円)。都は汚染対策に858億円を投じる一方、11年3月に東京ガス及び子会社の東京ガス豊洲開発と「汚染対策費用として78億円のみを負担する」との協定を結び、瑕疵担保特約を付けなかった。これについても、原告側は違法性を指摘している。
都側は「石原元知事に責任はない」と主張してきたが、小池都知事の意向を踏まえて今年2月、弁護団をヤメ検の勝丸充啓・元広島高検検事長ら6人の新メンバーに入れ替えた。これで訴訟は俄然、世間の耳目を集めることとなった。
弁護団入れ替え後初の口頭弁論は2月9日、東京地裁(林俊之裁判長)で開かれた。東京ガス工場跡地を選んだ経緯などを調査し、石原氏の責任を検証する姿勢に転じつつある都側は、この日方針転換を表明すると見られていた。ところが勝丸弁護団長は「訴訟方針の変更の要否を検討するには相当の時間を要する」と方針の明言を先延ばしにした。日程もにらみ、高度の政治判断が働いていると見るのが妥当だろう。都側は4月27日の訴訟進行協議までに方針変更の要否を決めるという。
2月の弁論後の会見で、原告の水谷和子氏(1級建築士)は「6千億円近くの公金を支出してしまった。無念さは残るが、公共事業のあり方を考え直すチャンスだととらえたい」と語り、梓澤和幸弁護団長は「都は誤りを認めて、石原元知事に損害賠償請求をしてもらいたい。石原元知事は証人として法廷で真実を明らかにすべきだ」と述べている。次回の弁論期日は5月31日である。
石原氏は1999年9月1日に築地市場を視察、「古い、狭い、危ない」と言い放ち、豊洲移転への流れを加速させた。拒否する東京ガスに、安西財閥の根回しにも余念なく、豊洲売却を説得させたのが石原氏の意を受けた浜渦武生元副知事であることは周知の事実だ。その石原氏は3月3日の会見で「行政全体の責任」と開き直り、7日付文書では「小池知事こそ移転させない不作為について責任がある」と小池氏に法的措置をちらつかせたが、内心はどうか。
同20日、都議会百条委員会は石原氏の証人喚問を健康上の理由により時間を短縮して行う。だがこれが空振りに終わっても、4月に都側新弁護団が方針転換すれば、法廷が石原氏を待つことになる。7月都議選に向け「小池劇場」の駆け引きは続く。