自公政権が克服すべき「三つの障害」

2016年7月号 連載 [永田町 HOT Issue]
by 上田 勇(公明党衆院議員)

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来年4月に予定していた消費税率引上げの再延期が決定された。野党は経済失政と批判を強めており、参院選の争点にしようとしている。しかし、批判だけで対案がない野党の姿勢は、国民生活に何のメリットももたらさない、非生産的なものだ。

安倍内閣・自公連立政権は、再スタート以来約3年半、経済再生を最優先と位置付けてきた。アベノミクスによる①金融緩和、②財政出動、③成長戦略は効果を発揮し、経済の本格的な再生への期待が膨らんだ。とはいえ、ここにきて失速感が生じており、その評価が問われている。

大企業の意識改革を後押し

民主党政権時と比べてほとんどの経済指標は好転している(表Ⅰ)。自公政権の3年半でGDPは30兆円以上増加(約6.4%)。その前の3年間で3兆円ほど(約0.7%)しか増えていないのとは段違いである。雇用、企業経営、株価などの指標も明らかに改善した。

自公政権が実行している金融・財政政策は基本的に的確である。一定の効果が上がり、好い流れができているのは確かだが、賃金・消費・投資など期待通りの成果が生まれていない面も多い。

だからと言って、前政権時のように経済政策の方向性が迷走した状態に逆戻りしたのでは、経済が更に厳しくなることは目に見えている。地元で中小事業者の声を聞くと、アベノミクスの効果が波及していないとの叱責が多い。一方、民主党政権時のような状態にだけは戻ってほしくないというのが率直な声だ。したがって、現行の経済政策の基本方針は堅持した上で足りない部分を補強・修正していくべきだ。

アベノミクスが期待通りに効果を発揮できていない要因としては、次の3点を挙げることができる。

▽デフレがあまりにも長期化したため、消費者・企業・労働組合ともマインド転換が想定以上に難しいこと。

▽人口減少・少子高齢化という経済社会の構造問題への認識が十分でなかったこと。

▽中国など新興国の経済失速や原油・資源価格の下落など海外要因が想定以上であったこと。

経済再生を軌道に乗せていくためには、この三つの障害を克服していかなければならない。

第一のデフレマインドの克服には、これまでの政労使会議を通じての働きかけを続けることだ。それぞれの企業が目先の利害を超えて、賃金引上げや下請取引条件の改善が、一時的にはコスト負担になったとしても、長期的には経済全体にプラスに働くという発想が重要だ。消費者にはその結果として物価が上がったとしても、結局は利益になるということを実感してもらう必要がある。政治は、こうしたコンセンサスの定着に粘り強く働きかけるとともに、最低賃金引上げや税制・予算でバックアップしていく必要がある。

公明党では、特に、下請取引の価格・条件が改善していない点に着目してきた。ものづくり中小企業等から意見を聞いて、依然として大企業から価格引下げや理不尽な条件が求められている実態が明らかになった。アベノミクスで中小企業や家計を潤すためには、ここを是正しなければならない。実態調査を踏まえて、大企業の意識改革などを後押しする政策提言を行ってきた。

第二の人口減少・少子高齢化への適切な対応が最も重要だ。国内市場が縮小するという需要側の問題と資本・労働力が不足するという供給側の制約がある。また、医療・介護等の社会保障制度への信頼がなければ、将来不安が払拭できない。結果として、日本の潜在成長力が伸び悩んでいる。

これらの課題に対応するための、①新たな市場の創出、②生産性の向上、③海外との連携強化といった施策は、毎年アップデートしている「日本再興戦略」に盛り込んでいる。

一方、経済政策が期待通りに機能しない原因を分析し、足りない部分を補おうとするのが、「ニッポン一億総活躍プラン」(表Ⅱ)である。これらは従来から公明党が最も得意としてきた政策分野であり、連立政権における役割は益々重要になっている。

日本経済を悲観するなかれ

「再興戦略」により成長力を高めることと、「一億総活躍プラン」によりその果実を家計・地方・中小企業等にいきわたらせることを同時に進めなければ、経済の好循環は実現しない。

消費税率の引上げについては、延期・予定通り実施のどちらの選択肢もリスクのともなう難しい判断であった。足もとの日本経済は決して悲観するほどではないが、消費に弱さがある中で世界経済の先行きに不透明感が深まっている。せっかくの好い流れを再び逆戻りさせることは絶対できない。当面の景気の下支えを優先した決断は適切である。

ここ数年、所得・法人税収が伸び、財政は改善してはいるものの、影響は避けられない。また、一時的には「一億総活躍プラン」を含めた社会保障財源を別途手当てしなければならない。連立政権として責任をもって対応していく。

経済再生は未だ道半ばであり、今後とも政策を総動員していく。来月の参院選では、政治の安定と政策の継続が必要であり、特に、中小企業、子育て、介護などの重要政策分野での実績が豊富な公明党が伸びることが、経済再生に直結すると強調していく。

著者プロフィール
上田 勇

上田 勇(うえだ・いさむ)

公明党衆院議員

1958年横浜市生まれ。東京大学農学部卒業。農林水産省を経て93年初当選(神奈川6区・当選7回)。財務副大臣などを歴任。

   

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