2016年7月号
連載
by 宮
希代の皮肉屋? 更田豊志委員長代理(6月15日、撮影/本誌 宮嶋巌)
凍結プラントの敷設作業
原子炉建屋の周りを囲む冷媒(ブライン)移送配管
「氷の壁じゃなくて、ちょろちょろと水が通る『すだれ』」
原子力規制委の更田委員長代理は稀代の皮肉屋か、実にうまいことを言う。福島第一原発の外周1・5㎞・深さ30mを「氷の壁」で囲むなんて夢のまた夢だ。地中の温度は、計測点の97%で氷点下になったが、粗い石の多い層に地下水が集中し、流れが急になっている。海側に流れ込む地下水が一向に減らないため、「遮水効果はすだれ同然」とは情けない。
汚染水対策の切り札として「凍土方式」を推奨したのは、政府の対策委員会(大西有三委員長)だった。2013年春、ゼネコン各社からプランを募集し、遮水効果、施工法に優れる鹿島の凍土方式に軍配を上げた。選評には「凍土壁で長期間建屋を囲い込むのは、世界に前例のないチャレンジで技術的課題が多い。事業者任せではなく、政府も一歩前に出て支援すべき」とある。雲をつかむようなハナシだったのだ。
景色が一変したのは13年9月3日。「世界中が注目している」と、安倍首相が凍土壁建設をぶち上げたからだ。4日後には20年夏季五輪の開催地決定を控えていた。「世界初の凍土壁」は、日本の本気度を、世界にアピールする絶好のチャンスだった。半ば国際公約と化した凍土壁にはドカンと予算がつき、建設費は345億円(凍らせる電気代は別)。それが、すだれの有り様では、鹿島も立つ瀬がないと思いきや、実はそうでもない。
「約170カ所の埋設物・埋設管を詳細に調べた鹿島は、とても全てを凍らせる自信はないと、着工前に何度か降板を申し出たが、政府側は『予算はある。やってもらうしかない』と聞く耳を持たなかったそうだ」(ゼネコン幹部)。
現地でわずか100㎡の実証試験をしただけだから、大規模・長期運用の土木工学的知見はゼロ。イチかバチかの奇策に成算はない。