編集後記

2016年2月号 連載
by 宮

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「汚染水問題が片付かないと、古里に帰りたくても帰れない」と語る蜂須賀禮子・大熊町商工会会長(元国会事故調委員)

「海側から凍らせたほうが安全上の問題が少ない」と言う原子力規制庁の金城慎司1F事故対策室長(撮影/本誌 宮嶋巌)

イチエフ原子炉建屋に流入する地下水(日量300t)を遮断する切り札と目された「凍土壁」があえなくお蔵入りしそうだ。原子力規制委の検討会が「凍土壁によって地下水を止めると、建屋周りの地下水位が下がり、もし建屋内の汚染水の水位を下回ったら、大量の高濃度汚染水が外に溢れる恐れがある」とダメ出ししたからだ。

膨大な汚染水に音を上げた経産省が、原発の周りを氷の壁で囲み、地下水を堰き止める抜本策を打ち出したのは3年前の夏だった。翌14年6月から幅2m、深さ30m、全長1・5㎞の地盤を凍らせるため、1550本の凍結管を埋め込む難工事が始まった。予定より半年遅れたが、昨年9月、先行する山側三辺の凍結準備が完了した。

経産省と東電は、山側からの地下水を止めた後、素早く建屋内の汚染水を汲み上げ、地下水が流れ込んで来る亀裂を塞ぐ作業に取りかかる目論見だったが、規制当局から待ったがかかった。「建屋周辺の地下水位が、運用開始後のどの時点、どの地点においても、建屋内の汚染水位を下回らないように保ち、水位逆転を回避できる根拠がない」と、山側の運用を諦め、海側のみ閉じろというお達しを出した。もし山側を堰き止めなければ建屋への地下水は止まらない。血税340億円を投じて建設した壮大な凍結設備は無用の長物となりかねない。「山側を閉めるか、海側を閉めるか」を巡って、経産省と規制委の押し問答が続いている。

大熊町で花屋を営んでいた蜂須賀禮子さん(元国会事故調委員)は3~5年後に古里に帰りたいと言う。「なぜ、国の当局が許可しない設備を、別の当局が造るのか。税金の無駄遣いだし、危険このうえない現場で働いた皆さんに申し訳ない。泥縄では汚染水問題は解決しません。避難から5年経ち、心が折れる日もある」と話す。

   

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