野党結集の「裏軍師」江田憲司の正念場
橋下に惚れ込み、裏切られた挫折もどこ吹く風。維新の党代表に返り咲き、参院選で勝負を目論む。
2016年2月号 POLITICS
「最近はあまりうまくいっていないが、今までがうまくいきすぎた。これからまた、オレが動く時が来る……」
周囲にこう語るのは、維新の党の前代表、江田憲司（59）だ。2013年12月に渡辺喜美（63）と立ち上げたみんなの党を離れた後、結いの党、維新の党と、「一強多弱の自民党に対抗するための政界再編」を訴え、新党結成を密かに画策してきた。野党再編のキーマンを束ねる「裏軍師」とも称される江田は今、何を見据えているのか――。
「9人組」の京都密会
還暦を迎える「裏軍師」
写真／平尾秀明
およそ1年前、当時大阪市長だった橋下徹（46）とともに維新の共同代表を務めていた江田が思い描く野党再編の道筋は明快だった。①15年5月の大阪都構想を巡る住民投票に勝ち、②続く11月の大阪府知事・市長の同日選挙に快勝し、③求心力が高まる中、16年夏の参院選までに維新、民主両党を解党し新党を結成、④後の衆院選で新党の目玉に橋下を擁立し、安倍政権を脅かす野党結集を実現する。
が、このシナリオは脆くも崩れ去った。住民投票に敗れた橋下の影響力が減退し、江田自身も責任を取り代表を辞任。その後、安全保障関連法案の対応を巡って江田や松野頼久代表（55）と、橋下に近い「大阪系」の意見が対立。さらに昨秋、山形市長選で民主、共産両党が支援する候補者を柿沢未途幹事長（44）が応援した問題で大阪系の不満が爆発し、橋下と松井一郎大阪府知事（52）が揃って離党。両氏は新党「おおさか維新の会」を旗揚げし、今では野党再編どころか、安倍政権に擦り寄っている。
一方で、裏軍師を気取る江田は、橋下が維新離党を表明する直前まで野党再編を水面下で画策し、あえなく頓挫したとはいえ、ギリギリの根回しに動いていた興味深いエピソードがある。
昨年8月末――。京都・祇園の「高台寺和久傳（わくでん）」。江田らは完全予約制の老舗料亭に、野党再編のキーマンが集う秘密会合を企てていたのだ。出席者の顔ぶれは維新から橋下、松井、江田、松野、民主からは前原誠司元代表（53）、細野豪志政調会長（44）、松本剛明元外相（56）、馬淵澄夫元国交相（55）、長島昭久元防衛副大臣（53）の9人だった。
内情を知る関係者によると、きっかけは7月初旬の橋下と前原の会食だったという。再編論者の前原が、橋下、松井、江田との4者会談を持ちかけ、これに呼応した江田が「再編に向けた拡大会合」を提案し、9人の顔ぶれが定まった。
「和久傳」の一室が予約され、橋下、江田を含むメンバーの多くが出席を了承した。ところが、まもなく計画は狂い出す。「この会合には大反対です。やめましょうよ」と、松井が真っ先に電話で伝えてきたからだ。そもそも松井は自民党所属の大阪府議であり、安倍晋三首相（61）、菅義偉官房長官（67）とパイプが太く、野党再編に後ろ向きだった。続いて「大人数で集まれば絶対に漏れます。そうなれば党内の立場が危うい」と欠席を言い出したのは細野だった。落胆した江田が「彼らが来ないなら会談の意味はない。今回はやめますか」と橋下に尋ねたところ、橋下は「話したことがない馬淵さんに会ってみたい」などと主張し、開催に拘ったという。結局、「9人組」の京都密会は露と消え、江田は野党再編の裏軍師の役割を果たせなかったが、橋下はギリギリまで野党再編に関心を持っていたようだ。要するに江田は「野党再編」を熱く語る橋下に惚れ込んだが裏切られ、再編シナリオをブチ壊されたのだ。「オレは橋下と腹を割って話し合える。橋下は『こちら側だ』」という過信が墓穴を掘った。橋下は江田ではなく松井を選び、今では安倍官邸に擦り寄っている。
鼻の下に傲岸不遜の看板
話を現在に戻そう。橋下が去った維新は昨年末、民主党との統一会派結成で合意。年明けの通常国会では両党合同で政策調整や国会対策の会議を開くなどして連携を深めつつある。とはいえ、江田が望む「民主、維新両党を解党した上での新党結成」は、民主党内の反対論が根強く、実現の見通しは立っていない。
裏軍師としての江田の真価を問われるのは、正にこれからだ。民主党代表の岡田克也（62）とは通産官僚時代の先輩、後輩であり、定期的に会食する蜜月だ。「ポスト岡田」の本命である細野ともウマがあい、民主党内の再編エンジンを点火できるかどうか。腕の見せ所だ。
「『解党・新党』でないとインパクトはありませんよ！」と捲し立てる江田に、岡田は「私を信じてください」と静かに答えたそうだ。維新内には、民主党に吸収合併される形での新党結成には拒否感があり、看板を掛け替えた「民主党」では参院選を戦えないと見切っている。民主党の参院比例代表議員は労組系が多く、そこに混じった維新の参院議員は壊滅するだろう。「それなら別々に選挙を戦った方がましだ。民主党は、もう一度こてんこてんに負けないと再編に本腰を入れない」と、維新内には民主党との合流に懐疑的な向きもある。
今、維新内で浮上しているのは、江田を再び代表に担ぐ構想だ。「民主党出身で存在感がない」と酷評される松野を降ろし、「比較的知名度と発信力がある江田を代表に立てれば、比例で2議席は獲得できるかもしれない」（党幹部）という希望的観測だ。当の江田も返り咲きに前向きという。
その一方で「調整力がなく維新分裂の戦犯」「態度が傲慢で敵だらけ」と、江田批判が絶えないのも事実だ。ある自民党の重鎮は「橋本首相の政務秘書官時代から変わっていない。傲岸不遜の看板を鼻の下にぶらさげ、政治家として大成するわけがない」と手厳しい。
02年の初当選から「政界再編」を叫び続けてきた江田も4月末に還暦を迎える。桜の咲く頃には野党結集の道筋が見えているのだろうか。裏軍師・江田の正念場だ。（敬称略）
