仏アクサが独占する「警察医療保険」の裏側

2013年7月号 DEEP

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日本の治安を維持している警察庁と各都道府県の警察本部。時に身を賭して市民社会を守るから、ケガも少なくない。万一の入院や手術に備えて、職場で医療保険に加入するが、警視庁を除いて全国のお巡りさんに「選択の自由」はない。警察共済組合が斡旋する医療保険の引き受けを、仏アクサの日本法人アクサ生命保険が100%独占するからだ。

警察庁と各道府県警察本部の職員数は25万人に達し、さらに家族や退職したOBを加えると70万人に膨らむと見られる。職員が自腹で払う医療保険料は年間150億円規模と推計され、団体保険を扱う生損保にとっては「オイシイ市場」である。

ところが、この市場から日本の保険会社は完全に排除されている。団体医療保険の引き受けを、警察共済組合がアクサ生命にしか認めないからだ。全国の警察本部や警察署、派出所に、アクサが製作した「警察共済組合医療保険(定期型)」のパンフレットが届けられる。また、生涯保障の「終身型」もある。

アクサは2000年、経営危機に陥った日本団体生命保険を傘下に収め、同時に、日団が圧倒的なシェアを持つ警察や商工会議所などの保険市場を奪取した。「世界ナンバーワンの保険ブランド」と宣伝するアクサに限って、懸念する必要はないと思うが、日本の警察官の健康状態や配置状況といった治安の根幹に関わる極秘情報を知り得る立場にいるわけだ。

関係者によると、アクサ生命が募集代理店に払う手数料は医療保険料の9%程度に抑えられ、業界平均の約20%に比べて断然安いという。逆に、この保険に加入する警察職員が負担する保険料は、「同種の他社商品に比べて2割程度も高い」(業界筋)らしい。これでは、団体保険の意味がない。自宅からネット保険に加入したほうが、保険料を節約できるかもしれない。

すなわちアクサにとって、日本の警察はコスト(=手数料)が安くて販売価格(=保険料)が高いという“ドル箱”なのである。気の毒なのは、割高な医療保険を押し付けられている警察職員という構図になる。

どうして一国の治安組織が、外資のカモになっているのか。それは、全国に6~7社あるというアクサの商品を扱う有力な募集代理店が、警察からの天下りを受け入れているからだ。

なお、警視庁は近年、共済事業への入札導入により、国内保険会社にも医療保険を「市場開放」した。防衛省でもかつて米系保険会社が独占していたが、国家安全保障の観点から、2年前に国内生保に切り替えた。

傷害保険に関しては、警察共済組合も国内大手損保など10社の共同引き受けにより、廉価な保険料を実現させている。なぜか医療保険だけが、アクサ生命の独壇場なのである。

警察共済組合は、地方公務員等共済組合法に基づき設立・運営されている組織。本誌の取材に、同組合は「昭和59年に医療保険の斡旋を始めた時に多くの商品提案を受け、その中から日団を選んだ。アクサになっても商品は変わらず、支障はない」と答えた。一方、アクサ生命広報部は「手数料率は、代理店と双方合意のうえ公正に決定している。代理店は当社とは別の組織体なので、(天下りについて)コメントする立場にない」としている。

   

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