パナソニックに居座る中村相談役は非常識

2013年7月号 BUSINESS

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2012年度に退任したパナソニックの取締役4人に合計18億5500万円もの退職慰労金が支払われたことが明らかになり、社内外から批判を浴びている。「2年連続で7千億円を超える赤字を出し、無配に転落した責任を取り辞退すべきだ」(元役員)。「『追い出し部屋』まで作って社員のクビを切っている時に非常識だ」(中堅幹部)。

慰労金を支給されたのは、昨年7月に99歳で亡くなった創業家の松下正治名誉会長、社長、会長を歴任した中村邦夫相談役、元副社長を務めた坂本俊弘、森孝博の両氏。パナは06年に退職慰労金を廃止したが、4人は廃止以前に取締役に就任していたため支給対象になった。

00年から昨年まで12年間も、パナのトップに君臨し、テレビ事業への無謀な投資や多額の減損処理を迫られた三洋電機の買収により、パナの屋台骨を揺るがした中村相談役と、その側近で経営企画担当の森氏、同じく側近でブランド戦略を担当した坂本氏の3人は「凋落の元凶。退職慰労金を辞退するのが当然だ」と、元役員は憤慨する。

パナOBや社員の怒りの矛先は、今なお経営責任を一切認めない中村相談役に向かっている。「森と坂本は中村の腰巾着。本来、副社長の器ではなかった」(幹部)と、中村時代の側近政治を酷評する向きもある。

6月26日の株主総会で大坪文雄会長は経営責任を取って特別顧問に退く。パナでは社長、会長経験者は相談役に就くのが慣例だが、大坪氏はそれを潔しとしなかった。パナにおける相談役の椅子は重みがある。幸之助氏の側近としてPHP研究所社長を務めた参議院議員の江口克彦氏は「晩年の幸之助さんは相談役として、松下電器の舵取りに目を光らせていた。相談役にはかなりの報酬が出る。経営危機を招いた人物が、創業者の衣鉢を継ぐ名誉職に居座る感覚を疑う」と酷評する。

昨年12月に京都で開かれた「客員会」(理事以上のOBの親睦会)の席上で、津賀一宏社長は「パナソニックの危機の本質は2年連続の赤字ではなく、将来展望がないことだ」と語った。

生き残りを模索する津賀社長は、旧体制との決別を宣言するかのように、中村時代に廃止された「事業部制」を復活させ、徹底した経営改革を打ち出した。

津賀社長は「表向きは中村相談役を奉っているが、さっさと辞めて欲しいのがホンネだろう」(幹部)。津賀社長は経営中枢の情報が中村相談役に流れないように、本社に残る中村氏の側近幹部を遠ざけた。そのうえで社長直属組織「コーポレート戦略本部」を、司令塔として新設した。さらに中村相談役のイエスマンらが牛耳る人事・総務・経理・広報などの管理部門の機能を縮小し、戦略本部に抜擢した5人のGM(グループマネージャー)に権限を与え、機密保持を徹底させた。中でも苦楽を共にした経営企画担当GMの本間哲朗氏がキーマンだ。

中村時代にはメディアの批判を封じ込めるため湯水のごとく広告予算をばら撒き、広報担当の鍛冶舎巧専務役員らが我が物顔で権勢を振るっていた。津賀社長は、旧来の広報を信用せず、「広告予算の削減と戦略的広報の立て直しを本間GMに命じた」(幹部)。鍛冶舎氏の更迭が決まり、後任には旧パナソニック電工出身の役員、竹安聡氏が起用される見込みだ。

   

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