「ガテン不足」が被災地復興の泣きどころ

藤森 徹 氏
帝国データバンク 情報部長

2013年7月号 BUSINESS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 和田紀央

  • はてなブックマークに追加
藤森 徹

藤森 徹(ふじもり とおる)

帝国データバンク 情報部長

1963年生まれ。関西大学卒業。92年帝国データバンク入社。中小企業の経営・財務に詳しく、与信管理セミナーなどの講演でも活躍。

——「アベノミクス」の国土強靭化で建設業は好況ですね。

藤森 実はそうでもないのです。4月に中堅ゼネコンの東海興業が再倒産(負債総額約140億円)。上場ゼネコンで戦後初といわれた1997年の倒産から会社更生を果たし、07年には売上高が1千億円を超える復活を遂げたものの、リーマン・ショックが直撃。そこに東日本大震災が追い打ちをかけた。資材不足に苦しみ、工期の遅れを取り戻すため予定以上の人員を投じたものの折からの労賃高騰で、外注労務費が大幅に膨らんでしまった。竹中工務店も労務費・資材費の上昇で創業以来初の営業赤字を喫し、鹿島、前田建設、熊谷組、銭高組なども国内建設工事の採算悪化で業績予想を下方修正。順風とは言い難い状況です。

復興・復旧需要により12年度の建設業の倒産は2664件で、前年より13%減っていますが、金融円滑化法による支援を受けた企業の倒産件数は28カ月連続で増え続け、そのうち4社に1社が建設業です。

——被災3県では受注工事のほとんどの工期が遅れている。

藤森 復興工事が本格化したのは昨年以降です。降ってわいた「特需」に資材供給が追いつかず、生コンが入らず土台建設が止まるケースも出た。さらに深刻なのは工事現場の人手不足です。職人の奪い合いで人件費高騰を招いています。腕のいい大工や左官の日当は「震災前の5割増し」です。

——賃金が上がれば技能労働者の供給も増えるのでは?

藤森 日本の建設業就業者数はピークの97年の680万人から10年に480万人に激減。バブル期から大きく減少した公共投資は厳しい価格競争をもたらし、中長期的なガテン(技能労働者)の育成サイクルが成り立たなくなった。実際、建設業就業者の3分の1が55歳以上で、29歳未満は13%しかいない。政府は公共投資をばら撒くばかりで、ガテンの育成を民間任せにしてきたツケが回ってきたのです。

——今後、キャパシティーを超える公共工事が発注されたらどうなりますか。

藤森 公共事業を増やすと雇用が拡大し、景気がよくなるという高度成長期のセオリーはもはや通用しない。「5年で25兆円」の復興予算に加え、国土強靭化で景気浮揚を狙うアベノミクスで全国一斉の公共工事が始まったら、労働力不足が深刻化するでしょう。工期延長で費用が嵩(かさ)めば赤字の建設会社が続出する恐れもある。人手不足と労務・資材費の高騰が業界全体にのしかかり、国土強靭化の一斉発注が、復興の足を引っ張りかねない。政府は工事現場の人手不足と向き合うべきです。

3月に三重県伊賀市内の建築職業訓練校が、国の補助金減額により閉校。60年余、職人をめざす若者たちに実技実習を行ってきた歴史ある訓練校でした。また、下請工事に必置される監理技術者の講習を手がける日建学院でも学生が減少傾向にあり、教室を減らすそうです。国と地方自治体は公共事業を発注するだけでなく、その担い手育成にもっと目を向けるべきです。

   

  • はてなブックマークに追加