南相馬市長と竹中工務店のバブルな宴
高級ホテルで市長主催の大宴会。主賓の竹中工務店の席には、あの児玉東大教授。
2013年5月号
「反原発」が売り物の桜井勝延市長
Jiji Press
それは豪華な宴だった。都心にそびえ立つ「ホテル椿山荘東京」。2万坪の日本庭園に、国の登録有形文化財の三重塔を抱く、老舗結婚式場として名高い。 広間に五つの大きな丸テーブル。料理卓からディナーが運ばれてくる。上座の円卓には、大手ゼネコン幹部がズラリ。竹中工務店の常務執行役員、竹中土木の福島営業所長、大成建設の執行役員、前田建設工業の総合企画部長、安藤建設の社長……。下座の円卓には、宴の主催者がにこやかに座っていた。誰あろう、「ユーチューブ」で被災地支援を呼びかけ、「世界で最も影響力のある100人」(米タイム誌)に選ばれた南相馬市の桜井勝延市長である。
市長を古くから知る地元有力者が言う。「『南相馬市経済復興懇談会』と銘打つ会合は、地元進出に名乗りをあげた企業を市長が招き、震災前は都内のKKR(国家公務員共済組合連合会)ホテルなどで地味に行われていました。豪勢な宴に様変わりしたのは震災後。椿山荘での開催は去年に続き2度目です」
まるでゼネコン談合の宴
昨年春、南相馬市は生活圏の除染を、竹中工務店を中核とする民間事業体(JV)に約400億円で一括発注。さらに昨年秋、農地除染についても竹中JVに随意契約(約66億円)で一括発注した。「なぜ、竹中ばかり。しかも随契なのか」と疑問の声が上がったが、「桜井市長が竹中一本に決めてしまった」と、地元の保守系議員は批判する。
実際、被災自治体主催の懇談会とは思えぬバブルな宴は、竹中JVをはじめとする受注業者の談合の場と見まごうものだった。
本誌が入手した参加者名簿には企業側から29社39人。桜井市長を囲むテーブルには、地元に事業所を持つ業務用厨房機器メーカー「タニコー」やゴム製品メーカー「藤倉ゴム工業」のトップが揃い、ゼネコン以外の業種では、日立製作所グループ、総合商社の双日グループ、地元でソーラーパネルの製造工場を建設するジー・エム・ジーの代表などが参加。福島県からは東京事務所長、地元商工団体からは原町商工会議所会頭ら6人が出席。市からは、桜井市長以下、経済部長、企業誘致担当理事ら8人が参加し、総勢約60人の大宴会だった。
出席したゼネコン幹部は言う。
「桜井さんは除染が済んだ工業団地に企業を呼ぼうと必死だったね。雇用を創出して避難した住民を呼び戻したいらしい。原発20キロ圏内の北部エリアの避難住民は、南相馬市に『仮の町』を作る計画があるとか、誘致に応じてくれた企業には地方税を10年間免除するとか、話が盛り上がっていた……」
しかし、業者に復興策を熱弁する桜井市長の地元における評判はさっぱりだ。とにかく、市の除染事業は遅れに遅れている。当初、市は今年度中に生活圏の除染を終える計画だったが、それが1年ほど遅れ、その実現さえ危ぶまれている。「環境省が難色を示したため、農業用ため池の汚染土壌の浚渫(しゆんせつ)を諦め、周辺の除草程度にとどめた。桜井さんは期待を裏切ることばかりしている」(地元の農家)
南相馬市では昨年度、一般会計予算の3分の1に当たる329億円分の復興関連予算(主として除染事業)の執行が遅れた。その結果、今年度の市の予算は過去最大の1055億円に膨れ上がり、3月の定例市議会で桜井市長は「復旧・復興予算の執行が遅れた責任を重く受け止める」と頭を下げた。
雇用の創出も掛け声倒れだ。「首都圏から企業を呼び込むため、企業誘致担当理事に経済産業省OBを受け入れたが、さっぱり役に立たない。市内で増えたのはコンビニのアルバイトぐらい」(地元住民)と酷評されている。震災以来、南相馬市の北に隣接する相馬市が復興関連企業の進出拠点となっており、南相馬市の中小企業の中にも営業拠点を相馬市に移すところが増えている。「南相馬は寂(さび)れる一方だ」と地元の商店主は嘆く。
「市長再選」はもはや不可能
相馬市の立谷秀清市長は医師出身で、地元最大の医療機関を経営する事業家。国や県とのパイプが太く、市主導の企業誘致を次々に成功させている。「酪農出身で反原発が売り物の桜井さんとはデキが違う」(地元住民)。桜井市政に失望するのは住民ばかりではない。昨秋、一連の震災対応の遅れに憤慨した南相馬市議会は、桜井市長に対する2度目の問責決議を賛成多数で可決した。決議文には「独断と思い付きの執行を繰り返す一方、除染の仮置き場確保に熱意が見られず、対応が進んでいない。市職員の大量退職も生み出した」とある。
しかも、昨年末の政権交代によって、桜井氏は中央政界とのパイプを失った。「かつては首相時代の菅直人さんと直に話ができたが、自民党政権は桜井市長を『共産党出身』と見て、相手にしない。昨年春に反原発の旗振り役として首長会議の真ん中に座った頃がピーク。再選は無理なので、来年1月の市長選には出ないと弱気を漏らしていた」と、桜井市長を知る地元工務店の社長は語る。
「椿山荘の宴」がきな臭いのは、竹中JVのテーブルの真ん中に、東大先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授が鎮座していたことだ。児玉教授と言えば「国会は一体何をやっているのですか」と、涙ながらに除染の徹底を訴え、話題を呼んだ人物。桜井市長はこの勇気ある発言に惚れ込み、市の除染コンサルタントに迎え入れた。
「その児玉氏が国会で『竹中工務店は放射線の除染にさまざまなノウハウを持っています』と発言したものだから、市は竹中に400億円の除染事業を丸投げしたのです」と、市長に批判的な議員は言う。業者との宴に、学界から出席したのは児玉教授だけ。竹中の一括受注は「お手柄」なのだろうか。
タイム誌はかつて「日本で政治家になるということは、抑制的な態度を取り、あいまいな言葉を話す」ことを意味すると前置きした上で、桜井市長のことを「通常の礼儀正しさを捨て、政府や大企業にかみついた」と称えた。そんな気骨は、昨今の桜井市長には見られない。