井上義久 氏
公明党幹事長・衆議院議員
2012年6月号
POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌
1947年富山県生まれ。64歳。東北大学工学部卒業。公明新聞記者を経て90年衆院初当選。党政務調査会長などを歴任。09年より現職。東日本大震災の際にはいち早く被災地入りし、支援活動の陣頭指揮を執った。当選6回(比例東北ブロック)。仙台市在住。
写真/平尾秀明
――野田総理が政治生命を懸ける消費増税法案の国会審議が始まりました。
井上 民主党はマニフェストで「やる」と宣言したことはちっともやらず、「やらない」と約束したことをやろうとしている。その最たるものが消費増税です。とにかく「初めに増税ありき」の欠陥法案です。野田政権には消費増税によっていかなる日本社会を作り上げるのかというビジョンがない。社会保障と税の一体改革とは名ばかりで、増税の時期や税率のみ先行し、社会保障の全体像を明らかにしていません。消費税には「逆進性」の問題もある。給付付き税額控除や複数税率の導入など、低所得者への配慮が欠かせませんが、それも明確になっていません。
――民主党は、現行の年金制度は「破綻している」と批判してきました。
井上 年金は破綻していません。毎年きちんと支払われ、持続可能です。逆に、月額7万円の最低保障年金の創設を訴えて政権交代した民主党は、未だに年金抜本改革の具体案を示さず、現行制度の機能強化を言い出しています。これは民主党が言う「年金破綻」が誤りであったことを自ら認めたようなものです。本来、年金のように長期的に取り組むべきテーマは政争の具にすべきではないのに、選挙目当てで「年金不安」を煽った民主党の責任は重い。
政権交代から2年半が経ち、民主党のマニフェストは総崩れです。「目玉商品」の子ども手当は自公政権時代の児童手当に逆戻り。「コンクリートから人へ」というスローガンの下で建設中止になった八ツ場ダムは昨年末、建設継続が決まりました。
そもそも民主党は、予算の組み替えや埋蔵金発掘によって16.8兆円を捻出し、「消費増税はしない」と明言していたのです。政権公約が完全に崩壊し、わずか2年余に総理が3人も代わった民主党には、もはや政権を担う正当性がありません。
――小沢一郎氏が無罪になりました。
井上 元秘書が一審で有罪判決を受けており、小沢氏には道義的、政治的責任が残る。国会での証人喚問に応じ、説明責任を果たすべきです。小沢氏は「秘書がやったこと。自らはかかわっていない」との発言を繰り返し、鳩山由紀夫・元首相も自らの献金偽装問題で「秘書がやった。自分は知らない」と主張し、政治資金規正法上の責任を免れようとしました。
公明党は再発防止策として、規正法の強化を強く訴えてきました。「秘書が、秘書が」という言い訳が通用しないように、秘書など会計責任者に対する国会議員の監督責任を強化する法案を提出済みです。
――民主党の輿石東幹事長は、小沢氏の党員資格停止を解除しました。
井上 野田さんは「社会保障と税の一体改革に命を懸ける」と言うが、党内基盤はあまりにも脆弱です。改革の素案を決める段階で離党者が出たうえ、小沢グループによる増税反対論が鳴り止みません。総理は党首討論で「51対49の党内世論でも、党内手続きを踏んで決めたら消費増税を進める」と、協力を呼びかけましたが、自らの足元を固められない与党の党首が野党に協力を求めるのはお門違いです。
野田さんが命を懸けるとまで言った消費増税法案に小沢さんは断固反対ですから、国会会期末の6月21日が迫っても、衆院で法案可決のメドが立たないでしょう。万一、衆院で否決されたら、野田内閣は総辞職か、解散に踏み切るしかない。自民党が解散を条件に、土壇場で賛成に回る「話し合い解散」の可能性もありますが、いずれにせよ野田総理と小沢さんのガチンコが避けられない会期末がヤマ場になります。我が党は常在戦場の構えで臨みます。
――NHKの調査でも「支持政党なし」が49%。二大政党は嫌われ、大阪維新の会が台風の目になりそうです。
井上 昨年の統一地方選以来、維新の会の動きを注視してきました。大阪府と市の二重行政のムダ解消や、府と市が一体となって住民の声を汲み上げ、大阪の再建を図るという方向性は、理解できます。維新の会の問題提起は「地方のことは地方で決める」というのが一番大きな柱であり、その考え方は、地域主権型道州制を唱える公明党と共通しています。
個々の政策については是々非々で判断しますが、維新の会は劇場型とはいえ、いわゆるポピュリズム(大衆迎合)とは少し違うと思います。「維新八策」にしても有権者にアピールしようとして、気前のよい政策を並べたというものではないと思います。国民のニーズを的確に捉える力はたいしたもの。既成政党の側も真剣に学ぶべきです。
前回の衆院選で民主党に期待した人が民主党に失望し、票の行き場がなくなってしまいました。維新の会は既成政党への批判を吸収していますが、より本質的には「国に頼るのではなく地方の力で国を変えよう」という大きなうねりが起こっているのだと思います。
――9月に結党50周年を迎えますね。
井上 「老舗の政党」というだけではダメですね。国民の期待を敏感にキャッチできなければ、新しい政党が次々に生まれてくる中で埋没してしまいます。公明党の強みは、地方議会を含め全国に3千人もの所属議員が「政治センサー」を張り巡らせていることです。「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」という立党精神の下、日常的に国民のニーズを的確に集約し、政策にして政治の場で実現していく仕組みがあります。こうした政党本来の役割を果たせるのは我が党だけと自負しています。
大震災の直後から、公明党が数多くの提言や議員立法を矢継ぎ早に打ち出し、政府を動かしてきたのも、3千人の政治センサーと、与党時代に培ったノウハウがあったからです。