伊藤国際学術研究センター

東京大学本郷キャンパスの新名所

2012年6月号 INFORMATION

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あの「赤門」横に威風堂々たる煉瓦造りの新名所が誕生した。イトーヨーカドーの創業者、伊藤雅俊・伸子夫妻の寄付により完成した東大の社会連携拠点の優雅な佇まいが話題を呼んでいる。

伊藤夫妻を支える長女の山本尚子さん(伊藤謝恩ホールにて)

待ちに待った伊藤国際学術研究センターが4月1日にオープンした。本郷通りに面した赤門の隣接地、「桜広場」を見おろすメーンビルは4階まで赤煉瓦を積み上げ、5階は金属板の屋根階として造形した。この地には大正時代に建てられた煉瓦造りの倉庫と学士会館別館があった。その面影を残すクラシックな佇(たたず)まいは、赤門と緑の樹木に調和し、実に優雅で美しい。

地上1~3階には素敵なレストランとカフェ、少し気取ったディナーも楽しめるファカルティクラブ、大中小の会議室・教室があり、生涯学習プログラムである東大ワールドカフェ(TWC)、グレーター東大塾(GTJ)も、ここを利用する予定だ。教育・研究施設としては、「東大エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)」と「東大政策ビジョン研究センター(PARI)」が入居しており、「街に向かって開かれた知の出会いの場を目指しています」と、センター統括長の鶴田靖人氏は言う。

伊藤雅俊名誉会長

東大名誉教授の香山壽夫氏の設計の妙に目を奪われるのは、桜広場の地下に設けられた500名が収容できる「伊藤謝恩ホール」だ。地下2階へ降りて行くと地下宮殿を思わせる荘重な空間が広がる。楕円形の大ホールはトラバーチンという石の割肌で囲まれ、天井一面に銅板がはられている。ホールには広場から自然光が差し込み、最先端の音響技術を駆使し、講演会にもコンサートにも使える。アリーナは可動式でレイアウトも自由だ。

イトーヨーカドーの創業者、伊藤氏(セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)は、古希(70歳)を迎えた1994年に「伊藤謝恩育英財団」を設立し、約750人の学生に20億円もの奨学金を支給してきた。さらに今年、米寿(88歳)を迎えた伊藤氏と伸子夫人は私財50億円を投じ、東大に素敵な知の拠点を寄付した。そんな伊藤夫妻の社会貢献活動を支える長女の山本尚子さん(伊藤謝恩育英財団常務理事)に話を聞いた。

*   *   *

――東大に寄付をするきっかけは?

山本 「東大には国際的な学術会議が開ける大ホールがないので、赤門の隣に建ててくれませんか」と、小宮山先生(宏・前総長)が直々にプランを持ってこられました。父より母のほうが寄付に熱心で(笑)、その場で決めました。

――どんな注文をつけましたか。

山本 日本の建物は長持ちしないものが多いので、欧米のように100年後もビクともしない建物にしてください、と。香山先生が設計に1年半もかけてくださいました。地下空間は芸術作品のようです。立派なものができたと喜んでいます。

伊藤謝恩ホールでは5月22日に完成記念祝賀会を催し、7月6日には内外の著名教授や新日本製鉄の三村明夫会長を招いて、オープニング記念シンポジウムを開催する計画です。

現在、学術会議、国際会議、シンポジウム、講演会、研修などに利用されています。国際会議仕様の最新設備を備えた施設ときめ細かなコンファレンスサポートサービスが自慢です。

赤煉瓦が緑に映える伊藤国際学術センター

――お父上は育英支援に熱心ですね。

山本 父は「商人の道」を教えてくれた祖母と伯父への感謝の気持ちを大切にしています。祖母は、困った人がいると放っておくことができない人でした。伯父は、父親違いの弟である父の世話を焼き、自らの生活費を切り詰めて進学させてくれたそうです。ところが、伯父は持病の喘息のため、会社がこれからという時に44歳の若さで亡くなってしまいました。父は、若い人たちの学びの機会を創出することで、祖母や伯父、これまでにお世話になった方々に報いたいのです。

――3月1日に新横浜にセブン&アイグループ社員のための「伊藤研修センター」がオープンしましたね。

山本 父が50億円、伯父の夫人である伊藤せきが20億円を寄付したのは、次は会社の将来を担う社員たちの育成を支援する番だと考えたからだそうです。伯母は研修センターができると聞いて涙を流して喜び、その直後に天寿を全うしました。「きっと、天国の兄さんに報告に行ったのだろう」と父は申しておりました。

私も研修センターの計画段階からお手伝いしました。技術の習得に必要な調理設備、陳列什器、最大約700名を収容する研修室など、最新の技術を導入した研修設備と快適な宿泊室やラウンジなどを備えた総合研修所ができました。1階には創業時から今日に至るまでの歴史を伝える「史料室」を設け、グループの創業精神とイノベーションを紹介しています。新鮮な発見があると人気です。

私は10年ほど前から伊藤謝恩育英財団に携わり、常務理事を務めています。「教育とは、自ら学ぶこと。助け合う気持ちを大切にし、常に謝恩の心を刻もう」という財団創設の理念を受け継ぎ、有能な人材の育成に寄与したいと思います。

   

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