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有権者に「地殻変動」 「維新」と第一極を狙う

浅尾慶一郎氏

みんなの党・政策調査会長

2012年5月号 [インタビュー]
by インタビュアー 本誌 宮嶋巌
浅尾慶一郎

浅尾慶一郎
(あさお けいいちろう)

みんなの党・政策調査会長

1964年生まれ。48歳。栄光学園高校、東大法学部卒業。日本興業銀行に入り、米スタンフォード大学経営大学院(MBA)修了。98年民主党から参院初当選、04年再選。09年みんなの党から衆院初当選(比例区南関東ブロック)。政界屈指の政策通である。 写真/平尾秀明

――橋下徹・大阪市長が率いる「維新政治塾」が開校し、国政進出に向け2千人もの受講者が集まりました。

浅尾 橋下さんは開講式で「自立する個人、地方、国家」をめざすことが、維新の会の価値観と強調し、「決定できる民主主義の実現」を唱えました。衆院解散の駆け引きに明け暮れ、国会で何の成果も出せない既成政党――。橋下さんの行動に有権者の関心が集まるのは、強烈な政党不信の裏返しです。

――維新の「船中八策」の評価は?

浅尾 道州制や首相公選制を掲げる「統治機構の作り直し」は、我が党の政権公約と瓜二つです。特別会計の徹底見直しと歳入庁を創設する「行財政改革」、総人件費削減を断行する「公務員制度改革」、地方分権型教育行政を実現する「教育改革」、一院制(参院廃止)をめざす「憲法改正」など、いずれも大筋で一致しています。よく「みんな」と「維新」はブレーンが共通と言われますが、それはブレーンを選ぶ感性が同じだということです。

「末期がんの薬は自費で結構」

――「維新」も「みんな」も競争重視。新自由主義の色合いが強いですね。

浅尾 団塊世代の方が75歳以上になる15年後、医療・年金・介護等の社会保障費用は倍になります。だから今、我が国は潜在的な成長率を高め、所得を増やすことに取り組まなければなりません。閉塞感漂う我が国に光明をもたらすのは「配分の政治」ではありません。我々は現状を直視し、たとえ厳しく聞こえることでも、将来のために為すべきことに力を入れます。潜在成長率を高める方策として、非効率的な分野を効率化することが大切です。まずは行政の中に潜む無駄遣いを徹底的になくします。また、規制によって本来の生産性を発揮できない分野の規制改革も推進し、小さな政府路線をはっきりと打ち出します。

――激しい抵抗が予想されますね。

浅尾 橋下さんは「今の世の中で国を変えるための戦(いくさ)は選挙である」と言い切り、「大阪ダブル選挙」に勝った後、賛否両論のある公約を次々に実現しています。リーダーのリーダーたる所以は、全ての関係当事者の100%の満足が得られない場合でも、政策の方向性を示して決断し、実行に移すことにあります。「橋下旋風」の背後には地殻変動があります。最近、現役を退かれた皆さんとの小集会で、末期がんの薬が話題になりました。その薬を使うと数カ月延命するそうですが完治することはない。「そんな薬は自費で結構」と、皆さん仰います。「お金のない人は早く死ねということになりませんか」と問うと、「孫の世代のことを考えたら、そんなお金はないはずです。政治家には『できないことはできない』とはっきり言ってほしい」と仰います。有権者の地殻変動を痛感しました。

――民主党は公約に掲げた公務員総人件費の2割削減さえ実現できない。

浅尾 それどころか退職共済年金の支給開始年齢の引き上げを理由に、60歳で退職した希望者全員を再任用することを決め、そのしわ寄せで国家公務員の新卒採用を大幅に削減しました。給与の安い新入職員を絞ったところで人件費の抑制効果は知れており、逆に高給公務員の既得権を守ったのです。若者へのしわ寄せは明らかなのに、岡田(克也)副総理は「これしか方法がない」と弁明しており、そんな発想をすること自体、全くダメだと思う。

――世論調査で無党派層が5割を超え、さらに増え続けています。

浅尾 郵政解散の時は自民党、前回の総選挙では民主党に、有権者は「振り子」のように振れました。結局、無党派層というのは総選挙ごとに投票先を変える有権者であり、次の総選挙で彼らの大部分は民主党に入れないでしょう。ならば二大政党の対極、自民党に雪崩を打つかといえば非常に怪しい。最近の自民党は何をしたいのかわからない、アクセントのない政党になっています。実際、毎日新聞の世論調査の政党別支持率では民主党14%、自民党13%にすぎません(ちなみにみんなの党は6%)。一方、大阪維新の会の国政進出に期待する人は毎日、読売の世論調査でそれぞれ61%、58%と高い水準にあります。既成政党への不信が強まる中、有権者に地殻変動が起こり、新しい受け皿に票が集まると思います。

■総選挙では150人前後を擁立

――消費税増税はどうなりますか。

浅尾 増税法案に政治生命をかける野田政権には三つの政局の可能性が考えられます。一つ目は法案を成立させる話し合い解散、二つ目は法案を否決され破れかぶれ解散、三つ目は法案が通らず退陣するケースです。しかも、6月21日の国会会期末に向かって日々状況が変わり、首相本人も見通しが立たない事態が続くと思います。おそらく会期末までに審議が終わらず、国会は大幅に延長されるでしょう。野田首相も苦しいが、9月に自民党総裁選を迎える谷垣(禎一)さんも追い込まれます。お盆前後に野田首相と谷垣総裁がアクセルを踏み込み、チキンレースになる可能性が高い。そこで野田首相が頑張り小沢グループを切れば、法案成立の可能性は高まる。その場合、衆院で可決された法案に、解散を確約のうえ参院で民主・自民合意の修正を行い、その経緯をマスコミにも公表する。そのうえで衆院に戻った法案に自民も賛成し、再可決する。これが食い逃げを許さない唯一の話し合い解散のシナリオでしょう。みんなの党は増税の前にやることがあると訴えてきました。それは一切の増税を認めないという主張ではなく、時期と順序があるということです。次の総選挙では当初目標の100人を上回る150人前後の候補者を立て、「維新」との連携を視野に「第一極」を奪いにいきます。キャスチングボートを握る政界再編の選択肢もあり得ますが、有権者との約束を果たすには、第一極を狙うのが一番です。