北朝鮮がミャンマー軍事政権に核協力

2009年9月号 DEEP [ディープ・アネックス]
by ゴードン・トーマス(インテリジェンス・ジャーナリスト)

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ヤンゴン近くに入港した北朝鮮の貨物船「カンナム1号」

AP Images

英米当局は、北朝鮮とミャンマーの「核コネクション」が、太平洋圏の安全保障を脅かすレベルにまで達しているとして警戒している。

英対外諜報機関MI6によれば、7月にミャンマーに向かっているところを米軍に追跡された北朝鮮の貨物船「カンナム1号」には核分裂性物質製造関連機器が積載されていた可能性がある。錆だらけの1万6千トン級のカンナム1号は、6月下旬に北朝鮮南部の軍港を出発した時点から、米国家安全保障局(NSA)の衛星の監視下に置かれた。米国の複数の軍艦と少なくとも1隻の潜水艦が貨物船の後を追い、ベンガル湾に近づくと、長距離監視機による空からの尾行も加わった。

英国チェルトナムにある政府通信本部(GCHQ)周辺では、衛星写真をもとに、7千人もの専門家がインテリジェンス収集にあたった。集められた情報は選別・分析され、MI6のもとに届けられた。MI6が着目したのは、ミャンマー政権がアラカンヨーマ高地に建設中の地下道に関する文書とビデオ映像である。MI6はアナリストを通じて、北朝鮮がここ1年、多数の核専門の科学者をミャンマーに送り込み、この地下道に関して助言してきた事実を確認しており、この地下道建設こそミャンマーの核兵器開発計画の一環であると判断したのだ。

ノルウェーを拠点に反軍事政権運動の活動を衛星で配信するビルマ語国際放送局「ビルマ民主の声(DVB)」の幹部筋によれば、「地下道は、一部がトラックでも出入りできるほど幅が広く、食糧や兵器の貯蔵室、約600人を数カ月収容可能な部屋もある」。さらに、MI6にリークされた文書から「巨大なロケットと衛星通信システム、司令センター」設置に向けて詳細な計画が立てられていることも判明した。

軍事政権が2010年にも原子炉を建設し、アラカンヨーマ高地で採掘したウランで核分裂性物質の生産に着手するかもしれないとの憶測も浮上しているが、1970年代に駐北朝鮮ミャンマー大使を務め、現在は軍事政権を声高に非難するタキン・チャン・トゥン氏は、同国が核開発計画を進めようとしている事実を認めたうえで「ミャンマー政府が欲しがっているのは、ずばり核爆弾の開発技術だ」とMI6の分析を裏づける発言をしている。

防衛アナリストのバーティル・リンター氏は「中国がミャンマーの軍事政権との取引に消極的になってきたので、北朝鮮ぐらいしか軍事機器の供給元として頼るところがなくなった」と、この核コネクションの背景を解説するとともに、「ミャンマーは核戦争も辞さない次世代の『ならず者国家』になりかけている」と警告している。

ミャンマーでは07年、原油価格の高騰を受けた燃料公定価格の引き上げが国民の不満に火をつけ、大規模デモに発展した。国内経済は火の車だが、軍事政権は国民総生産(GNP)の4割を軍事費に投入しており、「ここ3年にわたる地下施設の建設にも相当の額を投じてきたはず」(ロンドンの諜報筋)。ミャンマーは08年12月にミャンマー沖の天然ガスをパイプラインを通じて中国に販売する契約に合意し、今年3月にパイプラインの建設でも中国と契約。これも地下施設建設用の資金を捻出するためだったとされる。

折しも8月4日にはビル・クリントン米元大統領が訪朝し、金正日総書記に面会、北朝鮮で拘束されていた2人の米国人女性記者が「特赦」を得て釈放された。しかし、リンター氏は「国連は北朝鮮に対して武器禁輸を含む制裁決議を採択しているが、北朝鮮はミャンマーともども、これに屈する意思などさらさらないはずだ」と断じている。

著者プロフィール
ゴードン・トーマス

ゴードン・トーマス

インテリジェンス・ジャーナリスト

脚本やBBC、米テレビ放送ネットワーク向けテレビ番組も手がける。2005年2月に放送されたフランスのテレビ番組でダイアナ元妃の事故死についてコメント、同番組の視聴者数は900万に上った。対テロ国際会議(2003年10月、コロンビア)で講演したほか、米中央情報局(CIA)、英防諜機関(MI5)、米連邦捜査局(FBI)、英対外諜報機関(MI6)など世界34カ国の諜報機関幹部を対象にした講演では、1時間半のスピーチの後の質疑応答に2時間が費やされた。ワシントンで米国防総省、その他機関の関係者を対象にした講演経験もある。FACTAのほか、英独など欧州やオーストラリアのメディアにも多数寄稿。

   

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