『公認会計士vs特捜検察』
2008年2月号
連載 [BOOK Review]
by 石
出版社:日経BP社(税込み1890円)
2009年5月までに裁判員制度がスタートする。殺人、放火、誘拐などの重要犯罪について、今まで“お上”に任せてきた有罪、無罪の判断を自ら下さねばならなくなるのだから、裁判員に専任される可能性のある国民の不安は尽きない。
起訴した検察の主張を、被告が全面的に否定し無罪を叫んだとしたら。まして間違いがないと思い込みがちな検察側の調書が、意図的に作り上げられたものだったら……。
害虫駆除大手「キャッツ」の株価操縦事件で証券取引法違反(虚偽記載)に問われた公認会計士である著者は、まさに事件そのものが検察官による捏造であると主張している。虚偽とされる有価証券報告書などの記載は企業会計原則からいって虚偽にあたらないと言い、キャッツの元社長らとの共謀についてもアリバイを証明して無罪を申し立てているのである。
だが共謀を問われたキャッツの元社長らとともに一審では有罪判決。二審では会計学の専門家の鑑定書を提出、共謀を認めた関係者の逆転証言を揃えて臨んだにもかかわらず、控訴棄却の有罪判決となった。
東京地検特捜部による被疑者取り調べから逮捕、一、二審の全経過をまとめているが、そこに描かれている検察、裁判所は、日本人の大方が想像している公正無比とはまったく反対の姿である。被疑者の不安につけいって、作り上げた筋書きに沿った供述のみを求め、裁判では何十回も証言のリハーサルを強いる検察。企業会計の知識に乏しく、共謀が行われたとされる日のアリバイを証明しても、他の日時での共謀もあり得ると判断する裁判所。著者の主張どおりだとすれば、どうにも救いようのない無力感に捕らわれる。
企業会計をめぐる事件の裁判の経過をまとめた内容であり、しかも場合によっては「証拠提出するつもりで記述した」ため、ときに煩雑で部分的に読みにくい嫌いもある。だが、一審判決後、反転攻勢に出た著者が不利な証言をした共謀関係者と次々に会い、謝罪と証言撤回を得ていく様は、ドキュメンタリーとして興味をそそられる場面である。
その結果迎えた二審は、素人目ながら、どう見ても無罪になるはずなのだが、高裁は被告に有利な部分は無視して再び有罪の判決を下している。このあたり、無罪主張に急なあまり、検察の論法や裁判所の判断が十分に説明されておらず、読者としては判断に迷うところである。
著者も繰り返し書いているが、日本の刑事裁判では9割以上が有罪になるため、起訴どころか逮捕の段階で「犯罪者」の烙印が押されてしまう。被害者側への配慮が強く求められるのは当然だが、半面、事件への憤りが、被疑者の言い分を十分に聞かず、極刑をという声に結びつく傾向が懸念される。
だからこそ検察や裁判所の客観的な捜査、判断が求められるのだが、著者の詳述している取り調べや裁判の有り様は、現実がときに全く逆になっていることを示している。裁判員制度の導入を前に、日本の検察、裁判の内情をよりオープンにする必要のあることを、強く思わせる一冊である。