セラーテム「強制調査」で崩壊へ

本誌スクープから1年余り。前CFOのインサイダー疑惑も浮上し、証券監視委が鉄槌を下す。

2011年11月号 DEEP

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扉を閉ざしたセラーテムの株主総会会場(9月29日)

9月29日午前、JR東京駅に隣接する高層ビル5階の貸会議室で開かれたセラーテムテクノロジーの株主総会は、奇妙に沈鬱だった。8月5日に発表した2011年6月期決算は、09年末に買収した中国子会社の業績がフルに寄与して売上高が70億6300万円に倍増。純利益14億8400万円を稼ぎ出し、上場以来初の配当を実施するなど、業績は絶好調のはずだ。

にもかかわらず、総会の壇上に並んだ経営陣の表情は一様に暗く、終始うつむき加減。出席した個人株主が今期の業績見通しや中国事業の具体的進捗について次々に質問すると、池田修社長は「競争が厳しく大きな成長は期待できない」「受注の規模にこだわらず地道にやっていく」などと、消極的で中身のない答弁を繰り返した。昨年の総会で「中国事業は毎年30~35%成長をめざす」とぶち上げたのとは別人のようだ。

しかも、社外取締役を含む7人の取締役のうち3人を占める中国子会社の幹部の姿は会場になかった。彼らは「国慶節(中国の建国記念日)前の顧客への挨拶回りで忙しい」と称して来日を避け、テレビ会議で出席したのだ。中国事業がセラーテムの連結売上高の75%、純利益の85%を占めていることを考えれば、現地責任者が一人も総会に出ないのは不可解としか言いようがない。

だが、セラーテム経営陣がすぐ背後に迫った“影”に戦々恐々とし、それを投資家にひた隠しにしていたとすれば合点がいく。本誌がその秘密を暴露しよう。今年5月、証券取引等監視委員会がセラーテムの強制調査に着手、早ければ年内の告発に向けて調査を続けているのだ。

「偽計取引」で立件めざす

監視委の調査は極秘裏に進められているが、情報筋によれば、金融商品取引法の「偽計取引」の容疑で立件をめざしている。偽計取引とは、株式相場を変動させたり売買で利益を上げる目的で、虚偽の情報などにより他人を騙すこと。06年の「ライブドア事件」で、東京地検特捜部に起訴された堀江貴文・元社長ら経営陣および法人としてのライブドアに適用されたのは記憶に新しい。

池田修社長(左)と宮永浩明前CEO

では、セラーテムの何が偽計取引に当たるのか。ここで思い出していただきたいのが、本誌が怪しげな中国資本の「裏口上場」疑惑を暴露した昨年9月号のスクープ記事(『中国のハイエナ』が大証裏上場)だ。

セラーテムはもともと、旧大阪証券取引所ヘラクレス(現ジャスダック)で上場廃止の一歩手前のゾンビ企業だった。それが09年6月、英領バージン諸島に登記された正体不明の中国系ファンド2社および経営陣3人を引受先とする第三者割当増資を突然発表。同年末には中国系ファンドの1社を引受先に再び第三者割当増資を行い、その資金で中国の省エネ関連企業、北京誠信能環科技を買収した。あれよあれよという間に、急成長を期待させる「中国関連銘柄」に変身したのである。

その後、セラーテムは中国子会社が「火力発電所向け大型省エネ事業に参入」「次世代送電網のスマートグリッドを受注」「電気自動車の充電ステーション建設を受注」などといった胡散臭いIR(投資家向け広報)を連発。そのたびに株価が急騰し、10年8月には2年前の30倍という最高値をつけた。

ところが、セラーテムに出資した中国系ファンド2社と、セラーテムが買収した北京誠信は水面下で繋がっていた。本誌は徹底取材を通じて、一連の操作は北京誠信の大証への裏口上場と同然だったことを解明。スマートグリッドなどのIRは羊頭狗肉であり、株価つり上げが狙いである可能性も指摘した。

本誌スクープの反響は大きく、株価はそこから急落。セラーテムは投資家を納得させるような反論が何ひとつできなかった。今年に入っても株価は下落を続け、監視委の強制調査が入った5月以降下げ足を速めた。ところが、10月13日から突然2日連続でストップ高になるなど、不可解な値動きをしている。

むろん、株価がどうなれ疑惑が晴れたわけではない。本誌の推理が正しかったとすれば、虚偽の情報で株価を操作する「偽計取引」そのもの。背後の人脈が重なるチャイナ・ボーチー(東証1部)ともども監視委は裏付け調査を進めているはずだ。

さらに、新たな疑惑も浮上してきた。裏口上場をめぐる一連の操作を主導した宮永浩明・前取締役兼CFO(最高財務責任者)のインサイダー取引と、その他の取締役および監査役の特別背任の疑いだ。

宮永氏は、09年6月の第三者割当増資でセラーテムの発行済み株式の5.16%を取得したが、今年3月22~25日と5月13日の二度にわたり、所有株の3分の1の1.75%分を売却していたことが大量保有報告書の変更届から明るみに出た。売却益は3億円を超える。

しかも、セラーテムは3月22日に「米ソフトウェア大手のアドビシステムズと契約を結んだ」というIRを、5月12日には「中国子会社が電気供給工事を受注した」というIRをそれぞれ発表していた。宮永氏はその直後に所有株を売り抜けていたのだ。こんな露骨なインサイダー取引が許されるわけがない。

取締役会が「幇助」とは

開いた口がふさがらないのが、宮永氏が株を売却した理由である。3月末に一度目の売却が明らかになった後、市場では「東日本大震災直後の株価暴落で個人的な信用取引に大穴を開け、追い証に対処するため売却した」という噂が流れていた。9月29日の株主総会で、事実関係を株主に質された池田社長と宮永氏は、「震災の影響を受けたやむを得ない事情」と噂を否定しなかった。

株主からは「現職CFOの売却で市場の信頼が損われ、株価下落を招いた」との批判も相次ぎ、宮永氏は「責任を感じる」として今回の総会で取締役を辞任した。しかし退社はせず、引き続き社員として中国事業を指揮するというから呆れる。

それだけではない。資金繰りに窮した宮永氏個人に対して、セラーテムの取締役会は会社の資金3億7千万円を一時的に融資することを承認していた。宮永氏以外の取締役と監査役は、宮永氏が個人の損失をインサイダー取引で穴埋めするのを幇助したのも同然だ。会社法に詳しい早稲田大学法学部の上村達男教授は、「個人の損失に対して会社の資金を融資した時点で、特別背任を問われる可能性が高い」と指摘する。

折しも、米国市場では中国系上場企業の不正会計スキャンダルが次々に噴出している。米証券取引委員会(SEC)は、市場を食い物にする「中国のハイエナ」の排除徹底だけでなく、不正を見過ごした監査法人にも鉄槌を下す構えだ(97ページの記事参照)。日本の監視委は、セラーテムの告発にとどまらず、ハイエナを野放しにしてきた監査法人や大証・東証の責任もSECに倣って厳しく追及すべきである。

   

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