2008年2月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]
昨年のキーワード「偽装」まがいと揶揄される「スクープ」が、1月3日付朝日新聞の1面を飾った。「IHI虚偽決算の疑い」「課徴金最高17億円も」と題し、年明け目立った特ダネがなかっただけにひときわ目を引いた。しかし、記事内容は見出しとそぐわないシロモノだった。意図的な粉飾が明らかになったかのような書きぶりでありながら、文中にはそれを示す新事実はなくIHIが昨年自ら公表した決算訂正の内容を焼き直しただけだった。
「証券取引等監視委員会が本格的な調査に入る」と、あたかも新事実であるかのように書かれているが、「監視委が決算訂正した企業を調べるのは、当たり前のこと」(金融庁関係者)。「課徴金最高17億円」の見出しに至っては、株式時価総額をもとに算出される課徴金の計算式を使って朝日が計算したもので、監視委が計算した数字ではなかった。しかも、他マスコミが小さくではあるが、すでに報じた内容だった。
「なぜ、あれが新春1面トップになるのか。特ダネが出ない焦りだろう」とライバル紙のデスクも同情する。実際、他マスコミはどこも追随しなかった。
が、笑い話では済まなかったのはIHIの株価。年明け早々、急落したのだ。インターネットの掲示板にも、不安にかられた投資家らの書き込みが殺到。IHIの株価は決算訂正や監理ポスト入りで下落しており、新事実がないのに追い討ちをかけたことにならないか。本誌1月号が報じたように、朝日が行った「新聞読者基本調査」でも、朝日への信頼度が急落している。日本のクオリティーペーパーを自負する朝日には、本物のスクープを期待したい。