パソコン見放す20代「下流」携帯族

第二のデジタル・デバイド出現。パソコンは30~50代限りで、高機能携帯でもう十分。

2007年3月号 DEEP

 衝撃だった。パソコン(PC)が使えない団塊世代以上の高年齢層の断層を「デジタル・デバイド」と呼ぶが、第二のデバイドが出現したのだ。20代の若年層である。まさか、と思うなかれ。高額のパソコンを持たない彼らは、インターネット利用を安価な携帯電話で済ませてしまう。PC族と携帯族の「デバイド」――それはネットにも「下流社会」が出現したことを意味する。

 第二のデバイドが裏付けられたのは、ネット利用動向の調査サービス会社ネットレイティングスが昨年11月に公表した「データクロニクル2006・ファクトシート」。

 2000年4月から06年3月までの6年間でのPCサイト利用者の年齢構成比のグラフがショッキングだった。これまでネット利用を牽引してきた20代の比率が劇的に下降線をたどり、直近では全世代の11.9%に過ぎず、50代(11.8%)にほぼ並んでいる。20代人口の減少も反映しているとはいえ、これまでの常識を覆すような数値が出たのだ。

「キーボードが打てません」

 確かに携帯のネット機能は、PCと遜色ないところまで充実してきた。1月にau(KDDI)が発表した07年春モデルでは、パケット定額制が使える「WIN」の10モデル中7(訂正)6モデルまでワンセグ対応になったことが話題になったが、同時にPC用サイトを閲覧できるブラウザー「PCサイトビューアー」の高機能ぶりにも注目が集まった。

 音声や動画を組み合わせるアドビ製のソフト「フラッシュ」に対応した上に、同時に三つまでのサイトをタブで瞬時に切り替えられる「タブブラウズ機能」まで搭載した。これはマイクロソフトのPC用ブラウザー「IE」(インターネット・エクスプローラー)ですら最新版で搭載したばかりの高度な機能である。ほかに「ワード」「エクセル」、PDFファイルなども直接ダウンロードが可能で、PCと変わらない速度で表示させることができる。

 最も大画面で高画素のモデルになると「800×480ドット」という、少し前のPC並みの高解像度なのだ。人気の高い「ヤフー」や「楽天」などのサイトは横幅が800ドット程度なので、横に画面を移動させずともすべて見渡せる。

 auは昨年から検索エンジン「グーグル」と提携してサイト検索が行えるようになっているが、携帯サイトのみならずPCサイトの検索結果も、そのままPCサイトビューアーで見ることができる。「PCサイト対応・大画面高解像」はパケット料金収入を増やせるので、auだけでなくドコモもソフトバンクモバイルも、熱心に導入しようとしている。

 もちろん、PCより不便な点はまだまだ多い。あまりにも画面の解像度が高いため、老眼が進む50代はおろか、30代や40代でも豆粒のような細字の判読は、虫眼鏡でもないと難しい。指先がままならない中高年には「ケータイでの親指入力」自体もきつく、使い慣れたPCの10本指キーボードでないとまごつくだろう。

 20代はこれがハンデにならない。1999年に「iモード」が登場してから8年。10代のほとんど、20代の多くは親指族だ。そうした世代のニーズに応えるためか、親指式の入力でPCに入力できる「ケータイ型キーボード」が登場するという珍現象まで起きている。

 しかしこれを「さすがケータイ大国ニッポン」と無邪気に喜んでばかりもいられない。

 誰でも簡単にネットが利用できる携帯は、ネット利用の底辺を拡大する役割は果たしたかもしれないが、同時に「コンピューターに対する知識の欠如」や「キーボードで字を打てない」という、まるで高齢世代かと見紛うような退化を若い世代にもたらしはじめている。

 それを象徴するような笑えぬ事態が起きた。昨年11月19日夜、auでメールが送受信しにくくなる通信障害が発生。知らずにメールを送信すると、携帯電話に「送信できませんでした(110)」という画面が表示された。この「110」をエラーコードでなく、問い合わせ電話番号と勘違いしたユーザーが、警察の110番に電話をかけるという珍事が、全国で5700件も起きたのだ。

 PCを使い慣れた人なら「110」が理解不能でも、ある程度は見慣れているから、まさか110番するような非常識な行動には出なかったのではないか。携帯の普及による「PCイリテラシー(文盲)層」の増加は、こうした社会常識にも大きな断層を生じさせる可能性があるのだ。

 それだけではない。親指入力でどんなに速く入力できても、10本指のキーボードにはかなわない。万人が情報を発信することで成立するネット文化が衰退し、発信力が弱いケータイ文化はひたすら大量に流される情報を消費するだけの受け身になってしまうのではないか。

アップルは目ざとくシフト

 マーケティングにも巨大なインパクトをもたらす。PCが30、40、50代の団塊から団塊ジュニア世代までのツールでしかないなら、PCで一世代を画したマイクロソフトもインテルもデルも今後は先細り必至の恐竜だ。アップルのスティーブ・ジョブズCEOが斬新なデザインの「iフォン」を発表、社名から「コンピュータ」を消して携帯シフトを鮮明にしたのも、非PC端末によるネットアクセス普及への将来的な布石なのだろう。

 もっと大きいのは社会のデバイドだろう。ある携帯サイトの掲示板に「もうPCは要らない」と書き込んでいた20代の男性は、見習い期間を終えたばかりの美容師。朝早く出勤して開店準備、帰宅も夜11時を回ることが少なくない。土日は書き入れ時で休めないし、予約を入れてくれる指名客を逃さないよう平日ものんびり休んでいられない。休日は週に1日あるかないか。仕事でPCを使うわけではないから、わざわざ自宅にPCを据え、月額数千円もするブロードバンド(高速大容量)回線を引く必要を感じないという。

 ここに浮かぶのは「格差社会」ではないのか。PCが操作性や安定性からみて未熟な製品であることは事実だが、ホワイトカラーは当分、PCインフラに依存しなければ仕事ができない。しかしブルーカラー、あるいはフリーターは必ずしもPCを必要としない。ノートブックで十数万、デスクトップで最低7~8万円するPCを買うカネも時間も置く場所もないのだ。彼らが20代の「PC音痴ネットユーザー」である親指族の正体なのである。

※編集長ブログに萩原雅之ネットレイティングス社長との対談を掲載しました(2007.06.22)