号外速報(3月26日 16:00)
2025年4月号 BUSINESS [号外速報]
本田圭佑がオフィシャルアンバサダーのヤマワケ(同社HPより)
元サッカー日本代表の本田圭佑氏を広告塔に起用するクラウドファンディングサービス「ヤマワケ」を巡り、極秘裏に実質創業者が追放されていたことが明らかになった。
背景にあるのは親会社REVOLUTIONで進む「名誉会長」なる人物による強権支配。水面下では追い出された実質創業者が脅迫などで名誉会長を刑事告訴する事態ともなっている。
直近、ヤマワケでは一部商品の償還が延期され、REVOLUTIONでは破格の好条件として注目を集めた株主優待制度が一度も実施されることなく廃止された。そんな迷走の裏側ではガバナンス不全の危機が深刻化している。
ヤマワケを運営するのは第2種金融商品取引業者である「WeCapital」(東京・六本木)。同社では2022年に松田悠介氏が代表取締役に就任するなど経営体制の変更があり、それを機にクラウドファンディング事業に乗り出した。
松田氏は日本クラウドキャピタル(現FUNDINNO)の立ち上げに関わった経験の持ち主。ヤマワケにおいては、いわば実質創業者にあたる。
広く株主を募り増資を重ねてきた同社だったが、24年10月、株式交付方式で上場企業の傘下に入る道を選ぶ。約55%の株を取得して親会社となったのがREVOLUTIONである。旧原弘産で知られる同社は01年の上場以来、業績不振で株主の変遷が激しく、23年10月以降は「FO1」なる大阪市内の合同会社が支配株主の座にある。
FO1の傘下入り後、REVOLUTIONの社長となったのは経産省や米マッキンゼーでの勤務経験を持つ若手の新藤弘章氏だった。が、関係者によると、実際には取締役や社員でもない人物が経営を牛耳っているという。その人物はFO1の出資者の1人である神戸の不動産業者、美山俊氏である。
美山氏は社内で「名誉会長」を名乗り、ホテルニューオータニのガーデンコートにある本社オフィスには個室まであてがわれているという。無報酬ながら専用の運転手と秘書が付けられている。本来なら有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書などに何らかの記載がなされてしかるべきだが、横紙破りとも言える異例の待遇はひた隠しにされている。
秘密人事で社長が解任されたWeCapital(詐欺SNSへの注意を促す同社HP)
この美山氏とWe社の松田氏との間で意見の衝突が始まったのは昨年暮れらしい。結果として今年1月16日、美山氏は松田氏に「辞任」を迫った。以来、松田氏は出社が禁じられる。形式的には2月中に2度も臨時株主総会を開き、We社における役員の大幅な入れ替えは実施された。1度目の2月11日に美山氏ら3人が取締役に選任、2度目の同月28日で松田氏が解任された形だ。もっとも、これら人事は対外発表されていない。それどころか、3月26日時点で変更登記すらなされていない。言ってみれば、秘密人事だ。
出社を禁じられたREVOLUTIONの新藤弘章社長のX
他方でこの間、美山氏による粛清人事は前述の新藤社長にも及んだ。やはり2月12日以降、出社を禁じられたという。兼務していたWe社の取締役は2月28日付で辞任届を書かされ、REVOLUTIONの社長も3月11日付で同様の対応が求められた。「一身上の理由」とされたが、事実上の解任である。そんな中、件の株主優待制度の廃止は美山氏のほぼ一存で決まったようだ。
松田氏らWe社の関係者は株式交付によりREVOLUTION株を取得したが、うち半分はロックアップがかかっていなかった。24年12月頃、松田氏ら関係者4人はそれらを売却したようだ。これにより、デジタル商品券割り当てで最大年利14%超相当とされた優待制度は、対象株主が急増。年3億6000万円が見込まれた費用は12億円程度に膨らむと見積もられた。松田氏らの売却はREVOLUTION側との取り決めなどに違反しない適法なものだった模様だが、美山氏の怒りは沸点に達したようだ。
「こいつもう殺してもうたるわ」――。
美山氏は幹部を通じ松田氏に対しそんな荒っぽい言葉を申し向けたという。
2月28日に行われたWe社の臨時株主総会でも数十人の株主に向かって「あいつは刑事事件で100%アウト」などと松田氏のことを公然と中傷したようだ。これらを見かねた松田氏は3月14日付で脅迫や威力業務妨害などを理由に刑事告訴状を東京地検へと提出するに至っている。
事態はもはや混迷の極みだが、それを招いた影の支配者たる美山氏はどんな人物なのか。
1961年生まれの同氏は神戸朝鮮高級学校を卒業した後、92年に神戸で「西洋建物」を設立するなど不動産業界を歩んできたようだ。
同社は03年に神戸市灘区でビルを取得、現在もそこを本店としている。気になるのはそのビルを巡る登記簿の記載だ。昨年12月17日付で、日本大学の準附属校を運営する学校法人の「目黒日本大学学園」(東京・目黒)によって差押登記が打たれているのである。
ビルは14年以降、「六本木地所」なる有限会社が所有する。関連する裁判記録によると、同社の実質支配者は美山氏。裁判で明らかにされたのは魑魅魍魎が蠢く驚愕のアングラ世界だ。
一連の話は19年春に始まる。
学園の理事長が元教え子から巨額の寄付話を持ち込まれたのが発端だ。スペインの財団から1400億円もの寄付が得られるという。理事長は寄付の受け皿として「目黒日本大学事業部」なる合同会社を設立した。
しかし、約半年後にこの話は虚偽と判明する。突き止めたのは元教え子の知り合いで「橘綾霞」を名乗る女性だった。すると、女性はかわりの儲け話を持ち込んできた。
財務省が秘かに保有するリクルート株があり、その転売で800億円前後の利益が得られるという。理事長は女性に言われるまま株買い取り資金の金主になってくれそうな複数の候補と次々会った。
そんな中、理事長は20年5月、前述の合同会社名義で、ある契約を結ばされる。相手は大阪の「ケセラセラ」なる会社。リクルート株転売で入るカネで不動産開発を行う際、「補佐業務」を提供してもらうという。合同会社が7月末までに支払うべき報酬は5億円とされたが、そんな大金がペーパー会社にあるはずもない。支払い債務は学園が連帯保証することとされた。
4億8000万円の預金が流出した目黒日本大学学園(同社HPより)
ほどなくしてケセラセラはこの報酬債権を現金化しようと動く。7月中旬になり買い手に現れた先こそが美山氏だ。同氏は受け皿に六本木地所を指名。もっとも、同社が払った譲り受け代金は半額の2億5000万円のみ。
そこからの展開は急だ。わずか数日後の7月22日、六本木地所は都内の公証役場で公正証書を作成、支払い期限の7月末が過ぎた8月4日、連帯保証する学園の預金に対し差押を申し立てる。東京地裁は同月12日に許可を決定。学園の預金4億8000万円は強制執行によって六本木地所へと流れた。その後、同社は残元金を盾に学園の不動産まで差し押さえた。
しかし、学園が理事会の場で連帯保証を承認した事実などない。すべては理事長が女性らに言われるがまま記名押印した書面ばかりだ。預金流失に見舞われた学園は理事長を解任、強制執行は違法だとして六本木地所を訴えた。
24年2月に東京地裁が下した判断はこの手の裁判として極めて異例だ。理事会決議がなかった事実などを六本木地所側がろくに調査していなかったことなどを「悪意」や「重過失」と認定、強制執行は無効としたのである。控訴棄却により判決は24年9月に確定した。
そもそも財務省の秘密リクルート株などありもしない話である。
元教え子は18年にエイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄氏が同様の話で50億円を騙し取られた件にも関わっていた。一連の話が進んでいた20年1月には日大利権を騙る詐欺容疑で警視庁に逮捕されている。
美山氏はそんな怪しげなネットワークの一端に登場したわけで、しかも学園の預金を分捕った鮮やかすぎる手際は裁判所も不自然と見ざるを得ないものだった。判決を受け、六本木地所は学園に対し強制執行した預金を戻す必要があるが、同社はそれをしていないようだ。そこで学園側が講じたのが所有ビルに対する差押登記だったと見られる。
美山氏の経営壟断による前述の解任劇などについてREVOLUTIONはどう答えるのか。質問をメールで送り、書面を本社まで持参したが、期限までに回答は得られていない。