2025年4月号 INFORMATION
季節に応じた着こなしのヒント(左)、無理なく体を動かせるエクササイズ動画(右)などお役立ち情報を提供(ファンケルの総合情報サイト「Nagomi time」より)
いまや、がんは国民的な病気ともいえる。日本人の2人に1人は一生のうちに何らかのがんになると、がん情報サービスのサイトはいう。政府はがん対策の取り組みを進めており、こうしたサイトを通じて情報の提供に努めている。
がんでは乳房切除のような外科治療のほか、薬や放射線治療による脱毛や皮膚・爪などの外見が変わることがある。外見が変わると仕事や学校、買い物などで人の目が気になり、日常生活が難しくなると感じる人もいるという。
厚生労働省の調査では「外見に現れる身体症状の苦痛度は高い」としており、髪の脱毛、乳房切除、吐き気・嘔吐など20位までの身体症状のうち6割が外見という。見た目が変わっても、安心して生活できるように支えるのがアピアランスケア(外見のケア)となる。
「アピアランスケアを通して気持ちを楽にし、自分らしい生活や社会とのつながり、治療への意欲を保つことを目指せるとよい」(前出のサイトから抜粋)
政府は第4期がん対策推進基本計画を2023年3月に閣議決定した。治療を続けながら社会生活を送るがん患者が増えて、外見変化へのサポートが重要となり、アピアランスケアを基本計画で独立した項目にした。拠点病院など、アピアランスケアの相談支援・情報提供体制の構築などを推進するとしている。
ファンケル経営企画本部メディカルコーディネートグループの秋山裕香さん
民間でも、アピアランスケアへの取り組みを進めている。キリンホールディングス(東京都中野区)を親会社とするファンケル(神奈川県横浜市)もその一つだ。ファンケル経営企画本部メディカルコーディネートグループの秋山裕香さんは、アピアランスケアへの取り組みについて次のように話す。
「毎年94万人あまりの方が新規でがんと診断されています。完全に元通りにならなくても、患者さんの心が和み、少しでも前向きな気持ちになっていただければと考えています」
キリングループには協和キリン(東京都千代田区)という製薬会社もあれば、ファンケルのようにスキンケアを得意とするところもある。がんという社会的な課題の解決にグループが協力し合って取り組むなかで、ファンケルはアピアランスケアへの対応を進めている。
アピアランスケアについて、秋山さんは「特別なことでなく、日常の延長でいい」と話す。
たとえば、がん治療で眉毛が抜ける悩みを抱える人がいたとする。特に髪や眉毛、まつ毛の脱毛症状は、痛みやかゆみよりも苦痛度が高いとされる。女性なら、自分で眉をかくこともできるだろうが、男性の患者は普段の生活でそういう経験のない人が少なくない。男性の患者には、眉をどうかけばいいのか、基本的な情報が必要になる。
洗顔の仕方を動画で紹介(「Nagomi time」より)
がん患者は男女を問わない。男性でも治療で荒れた肌の手入れが必要になるかもしれない。洗顔用の泡立て方や、肌を保湿する手入れの方法など、ファンケルでは「基本的なスキンケアの情報を発信しています」(秋山さん)という。アピアランスケアについては、男性の患者は聞きたくても聞けない人が少なくないため、実際にケアを受けると男性のほうが喜びも大きいようだとも。
治療中のおすすめのレシピも満載!(「Nagomi time」より)
アピアランスケアでは患者に寄り添うために、患者や医療関係者からの声も大切になる。ファンケルは昨年春から、医療機関などでヒアリングも始めている。がん患者向けの説明会や医療機関に出向いているという。さらに、患者と医療従事者を取り持ち、つないでいくことも大切になるとみている。
アピアランスケアの取り組みは、海外のほうが進んでいるという。米国やヨーロッパでは、スキンケア、メイク、ウィッグなど、外見の変化による心理的負担を軽減し、自信回復をサポートする取り組みが行われている。
ファンケルでは「患者さんの気持ちのところまでサポートしたい」(秋山さん)という。とことん、患者さんに寄り添い、医療従事者と一緒になって取り組んでいくとも。
がんになって外見が変わり、気持ちが落ち込んでいた患者が、アピアランスケアを受けて、心理的にも社会的にも大きく生活が変わる人は少なくない。たとえば営業職の人が、手の爪の外見が変わり、名刺交換など顧客へのプレゼンテーションに気後れするようになることがある。そうした人には、爪のやすりのかけ方やネイルケア商品の活用法など、見た目が良くなる方法があると教えてあげるといいという。
ただ、医療従事者が爪のケア方法まで知らないこともあり、患者に対応方法がうまく伝わらないケースもある。そうした場合には、ファンケルのような患者と医療従事者をつなぐ取り組みも大切になってくる。
治療で外見が変化した体験者への調査で、頭髪、スキンケア、爪の症状の知識とその対処法についての各質問に対して、3~5割程度が「(情報が)必要だったが得られなかった」と回答しているという。ファンケルでは、情報の種類や提供方法に課題があるとみている。
がんになったとしても、患者が自分らしく日常の生活が送れるようになるといい。ファンケルでは患者に寄り添えるように包括的な情報を提供して、支援していきたいと取り組みを進めている。
(取材・構成/ジャーナリスト 浅井秀樹)