誰もが生き生きと、互いを思い合う共生社会へ
2025年1月号 INFORMATION
パリ2024オリンピック競技大会後に行われたメダル報告会
2024年夏にフランスで開催されたパリ2024パラリンピック競技大会。そのパラ競泳女子100メートル自由形(S12)で銅メダルを獲得した辻󠄀内彩野選手は、次のように大会を振り返る。
「本来はもっと速く泳げて、納得のいかないタイムでした。自己ベストを出していれば銅とは違う色のメダルだったと思います」
辻󠄀内選手は次の飛躍へ、闘志を奮い立たせている。
DAO.のイベントに参加する辻󠄀内彩野選手
水泳一家の辻󠄀内選手は競泳の道に進んだが、病で視力が低下した。「小学生のころから視力が低下し、近視と思っていたのですが、大学のころ黄斑ジストロフィーという難病と判明しました」と話す。高校時代のパラ競泳の友人がカラオケで、近距離で画面を見ている辻󠄀内選手に「もっと目が悪くなればパラへ来れば」と声をかけたこともあり、パラ競泳の道を選んだ。
視覚障がいクラスは、重度のS11から軽度のS13まで3段階。S11は競技の公平性を保つために完全に光を通さないブラックゴーグルで泳ぐ。視覚障がいの競泳では、ゴールやターンの壁の位置を、選手に棒でたたいて知らせるタッピングもある。
女子100m自由形で銅メダルを獲得した辻󠄀内彩野選手
「視力が弱くなり少し恐怖心が出てきて、ゴールの瞬間は怖くなっていましたが、競技クラスが変わってタッピングをしてもらえるようになり、最後の勢いを殺さずにゴールできるようになりました」(辻󠄀内選手)
辻󠄀内選手は三菱商事に所属している。自治体などの公的助成もあるが、それだけでは難しいという。たとえば、女子競泳の水着は高いと1着10万円ほどになるものも。「破れて替えがないと競技に出場できなくなり、最低でも2、3着は必要」と話す。さまざまなサポートがないと競技を続けるのは難しいが、今は三菱商事のサポートで「いい環境にいます」という。
女子200m個人メドレーで銅メダルを獲得した木下あいら選手
パリ・パラ大会の女子200メートル個人メドレー(SM14)で銅メダルを獲得したのは高校生の木下あいら選手。「まわりの方々はすごく喜んでくれていますが、自分は結果に満足していないという気持ちの方が大きいので、まわりと喜びの差があると感じています」と大会を振り返る。そんな木下選手は25年の世界選手権で金メダル、ロサンゼルス2028パラリンピックで「自己ベストで金メダル」を目指している。
2歳から水泳を始めた木下選手は、中学3年でパラ競泳の道へと進んだ。試合のタイムが悪いとつらいが、思うように泳げて、好タイムが出た時や、海外の選手と会えると楽しく感じる。「しんどいと思うことも多いですが、海外の選手とまたレースしたいという気持ちで頑張っています」という。
三菱商事のサポートを受ける木下選手は「合宿や試合の遠征などでの経済的な不安が減り、競技に集中できるようになりました。社員やグループ会社社員のみなさんが会場に応援に来てくれることはとても力になっています」と話す。
車いすラグビーの池崎大輔選手
Photo:MegumiMasuda/JWRF
今回のパリ・パラ大会では、三菱商事に所属する辻󠄀内選手と木下選手、車いすラグビーの池崎大輔選手(金メダル)がメダルを獲得した。三菱商事は14年に創業60周年記念事業としてDREAM AS ONE.プロジェクトを開始した。「インクルーシブ社会」の実現に向けてパラスポーツを応援し、パラスポーツの裾野を広げて、理解や認知を高めようと取り組んでいる。
具体的には、対人関係をうまく築けないといった発達障がいなどの障がいのある児童向けスポーツ教室「DREAMクラス」を開催するほか、パラスポーツについてのセミナーやボランティア養成講座の開設、パラスポーツ体験会なども実施している。
「みんなでチャレンジアカデミー」で車いすラグビーを体験する子どもたち
三菱商事・社会貢献チーム担当者は「障がいのある子ども達に、さまざまな体験の場を提供していけたら」と話す。たとえば、ある発達障がいの小学生は他の人と一緒にスポーツすることが難しかったが、「DREAMクラス」に通い、徐々にできることが増えて、中学生になるころには部活に挑戦したいと思えるまでになった事例もあるという。
障がいのある人がスポーツを続ける難しさは金銭面だけでない。介助が必要な人もいるほか、車いす競技では床に傷がつくからと練習で体育館などの施設の利用を断られることもあるという。辻󠄀内選手は、パラスポーツへの理解が進んでほしいと願っている。木下選手は「知的障がいの女子選手は、海外に比べると若い人が少なく、もっと増えてくれると良いと思っています」という。
三菱商事の担当者は次のように、取り組みを続けたいと話す。
「パリ・パラをはじめとした選手たちの活躍もあり、パラスポーツの認知度の高まりを感じています。DREAM AS ONE.プロジェクトも開始から10年を迎えましたが、今後も共生社会の実現に向けた、弊社らしい支援を続けていきます」
(取材・構成/ジャーナリスト 浅井秀樹)