2024年11月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
海洋安全保障に関する調査研究や政策提言、海上自衛隊の諸活動への協力などを目的とする公益財団法人水交会に入っている。「水交」の名は中国「荘子」の「君子之交淡若水(君子の交わりは淡きこと水のごとし)」という一節に由来する。「立派な人物の交際は淡々としているが、その友情はいつまでも変わらない」という意味だ。
水交会の行事で海上自衛隊の大型護衛艦「いずも」の体験航海に参加した。軽空母への大改造は始まったばかりで甲板の一部に真新しい耐熱塗装が施されていた。出航して間も無く、隣の桟橋の陰から2隻のジェットスキーが猛スピードで接近してきた。片方は若夫婦と幼児の3人乗り。楽しそうに笑っていた。
「いずも」は警笛を5回鳴らした。海上衝突予防法第34条は「衝突を避けるために十分な動作をとっていることについて疑いがあるときは、直ちに急速に短音を5回以上鳴らす」と定めているからだ。警笛の意味を理解していたとは到底思えないが、しばらくして2隻のジェットスキーは離れていった。
もしこれが中東、クリミア半島周辺のような紛争地域だったなら問答無用で2隻は撃沈されていた。テロリストの自爆攻撃、あるいはジェットスキーを装った水上ドローンと見做されても仕方ない状況だった。核武装した中国やロシア、北朝鮮を想定した有事に備える海自の艦艇を的にして家族サービスの真似事をする思考回路は理解し難い。日本の平和ボケは末期的症状を示している。
先の荘子には続きがある。「小人之交甘若醴(小人の交わりは甘きこと醴のごとし)」。醴は甘酒のことで「志の低い者の交友は甘酒の様に甘くて飽きやすく長続きしない」という意味。親子連れの愚かな行為を制止せず、一緒に騒いでいた仲間の志は間違いなく低い。生涯の友にはなり得ない「小人」である。
松果堂