「食」で日本品質を世界各地へ 10万店突破めざすセブン‐イレブン

2024年10月号 INFORMATION

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2023年9月にオープンしたラオス1号店

東南アジアのマレー半島南端にシンガポールがある。近代的な都市国家として発展が著しく、人口の増加率も高い。そのシンガポールには、国内コンビニエンスストア最大手のセブン‐イレブンが約500店を展開している。海外のコンビニ事業を担うセブン−イレブン・インターナショナルの越前谷真人ヴァイス・プレジデントは、シンガポールが「海外展開で一つの成功体験」と話す。現地で店舗の立ち上げを支援していた当時を次のように振り返る。「2014、15年ごろのシンガポールの店舗は日販も客数も低く、困っていました。そこに私はオペレーション担当マネジャーとして支援に参画しました」

徹底調査で行き着いた「チキンライス」

セブン-イレブン・インターナショナルの越前谷真人ヴァイス・プレジデント

当時の主力商品はサンドイッチや、工場で冷凍して店舗で解凍したお弁当だった。購入者は商品の中身をパッケージ写真でしか見ることができなかったという。日販とは、1店舗の1日あたり売上高のこと。「現地で何が食べられているのか、街頭でアンケートをとるなど、スタッフ一丸となって徹底的に調査しました。そこで行き着いたのがチキンライスでした」

ゆで鶏と、そのゆで汁で炊いたご飯を盛りつけた「チキンライス」は、シンガポールの食文化を代表するメニューともいえる。そこに至るまで、現地の屋台や家庭料理などで人気のある食べ物は何なのか、現地スタッフと共に探し求めた。セブン‐イレブンのオリジナル商品として、チキンライスを現地の店舗で提供することができるまでに半年くらいかかった。

シンガポールで発売した「チキンライス」(当時)

「幸いにも、現地には専用工場がありましたが自前で商品を提供する体制を構築するまでは試行錯誤を繰り返しました」(越前谷さん)。さらに、現地の人たちに商品が受け入れられるようになるまで微修正を繰り返したという。チキンライスという商品は、ゆで汁も大切な要素となる。

その後はチキンライスだけでなく、シンガポール麺の「ラクサ」やココナッツミルクで炊いた「ナシマレ」、インド式の炊き込みご飯「ビリヤニ」なども投入して、人気となっている。

セブン&アイ・ホールディングスは、シンガポールをはじめ、コンビニ事業の海外展開を加速している。すでに20の国と地域で約8万5000店を展開しており、これを30年には30の国と地域で10万店の規模に拡大していく目標を掲げている。「食を中心にして、セブン‐イレブン・ジャパンで培ってきたバリューチェーンを世界に展開し、7‐11ブランドの価値を高めていきます」(越前谷さん)

現地顧客に支持されるオリジナル商品(ベトナムの事例。柑橘系ドリンク「カラマンシー」)

とはいえ、アジアをはじめ、世界にはさまざまな人種や民族、宗教宗派の人々が暮らしている。その食べ物や味つけの好みなども、国や地域で異なる。

「食」の分野で、もっとも差別化しやすいのがフレッシュフードという。フレッシュフードとは、品質にこだわり、つくり立ての美味しさをコンビニ店舗で提供することを目指したオリジナル商品。フレッシュフードが店舗の売り上げに占める割合は、日本で約35%に達している。海外では国や地域によって異なるが、日本並みの水準の国もある。

セブン‐イレブンの店舗は、国内に約2万2千店近くある。海外では、タイに約1万5千店、韓国と米国にそれぞれ約1万3千店などとなっており、アジアを中心に海外事業を強化している。

アジアの国や地域は人口が増えており、経済も発展して、人々の生活水準が向上している。特に東南アジア市場について、越前谷さんは「人々は日本の商品の品質をよく知っており、質のいいもの、美味しいものを食べたいと思っています。サンドイッチやおにぎりなどはもちろん、現地の人が好むものも、品質で妥協することなく、お客さまの求めるレベルの商品を提供していきたいと考えております」と話す。

現地の嗜好に合わせてローカル化

現地顧客に支持されるオリジナル商品(ベトナムの事例。「ベトナム風焼きそば」)

たとえば、おにぎりという商品は、日本と同じものがいいのか、現地の人の好みにするのがいいのか。顧客層はいずれも日本に近いのだが、香港では日本と同じものが好まれる一方で、シンガポールでは青く色づけするバタフライピーという花の原料を使った日本にはないおにぎりをローカル化している。

店舗数で海外最大のタイでは、10代から30代が重要な顧客層になっている。これらの年代はSNSなどを通じて情報を拡散する人が多く、社会的な影響も大きいからだ。タイは台湾と並んでフレッシュフードの占める割合が高く、店舗の競争力は高い。

現地顧客に支持されるオリジナル商品(ベトナムの事例。「バインミー」)

人口で世界最大の約14億人が暮らすインド。そこにはムンバイなどに約60店舗を出店しており、デリーなどの都市部を中心に大きな成長余地がある。ベトナムやラオス、フィリピンなどにも進出しており、今後の経済成長や生活水準の向上とともに事業規模の拡大が期待できる。

一方、約2億7千万人が暮らすインドネシアにはまだ出店していない。現地では中間層が増えており、今後の海外コンビニ事業を拡大していくうえで、有望な市場になるとみている。

「私たちは世界で近くて便利を創造できるという思いを強く持っています。グローバル事業はグループの大事な成長戦略です」(越前谷さん)。セブン−イレブンの海外事業は、既存の出店エリアと、未出店エリアの両面で今後も展開を加速していく。

(取材・構成/ジャーナリスト 浅井秀樹)

   

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