MC SCIENCE SCHOOL×国立科学博物館「不思議・おどろき~タネの形でサイエンす?~」

三菱商事と科博のコラボにより実現した珠玉の特別体験プログラム。第一線の研究者から教わる「生物多様性」に、子どもたちは興味津々。

2024年10月号 INFORMATION

  • はてなブックマークに追加

モダマのタネの模型を手にする講師の國府方吾郎さん

夏本番を迎えた2024年8月1日(木)、2日(金)の2日間、東京・上野の国立科学博物館で、生物多様性をテーマにした小学生対象の特別ワークショップが開催された。題して「MC SCIENCE SCHOOL×国立科学博物館 『不思議・おどろき~タネの形でサイエンす?~』」。優美なクラシカル建築で知られる「日本館」の講堂に小学1年生から6年生までの子どもたち76名が集まった。

講師を務めたのは、科博の植物研究部に所属する理学博士の國府方(こくぶがた)吾郎さん。「生物多様性、これは高校で勉強します」。國府方さんが語りだすと、子どもたちも目を輝かせ、一気に引き込まれていった。地球上の生物種は知られているだけでも約210万種もあり、熱帯雨林や砂漠など生育環境もバラエティに富んでいて、互いに密接に関係しあって生きている。そんな「生物多様性」の有り様が、写真や図表とともに大きなスクリーンに映し出された。

「タネの模型」から学んだ植物の知恵

アオギリの植物体

生物多様性は、あらゆる生物種の多さとそれらによって生態系の豊かさやバランスが保たれている状態を言い、さらに、生物が未来へと伝える遺伝子の多様さまで含めた幅広い概念である。子どもたちにわかりやすく伝えるのは至難の業だが、そこは第一線の研究者と、長年、世界各地で熱帯雨林の再生やサンゴ礁の保全活動に取り組んできた三菱商事の出番である。

科博との縁は深く、07年から障がいのある方のための特別鑑賞会を開催し、昨夏はサンゴ礁保全活動に関するイベントも実施した。今年は、植物の絶滅危惧種について研究する國府方さんの志に賛同し、共催が実現した。

アオギリのタネ

今回の主役は「植物のタネ」。珍しい形状をしたタネの実物や大きな模型が次々と登場し、カキ、オナモミ、モダマ、タンポポ、アルソミトラ、アオギリなど6種類のタネの運ばれ方を当てるクイズがはじまる。「なにで運ばれるでしょう?」。國府方さんが出題するたびに「風で運ばれる!」「動物に食べられる!」と、会場から元気な声が上がった。

さらに、模型キットを使って「アオギリ」と「アルソミトラ」の模型づくりにチャレンジ。タネの飛び方を観察した。アオギリは船のふちにタネがついたような形で、回りながら落ちる。「なぜくるくる回るんですか」。高学年の子が問いかけると「良い質問です。滞空時間を長くすることで遠くまで飛んで、子孫を残そうとする植物の知恵なんです」と、國府方さんが解説する。

アルソミトラのタネ

熱帯アジアに生えるアルソミトラは、大きな果実のなかに翼をもったタネを約400個も抱える。タネの模型は、グライダーのようにゆっくり、ふわりふわりと遠くまで飛んでいくものもあれば、微妙なバランスですぐ落ちてしまうものと、さまざま。自分たちで作った模型が飛ぶ様子をみて、ある子は「あまり飛ばないものもあるからこそ広い範囲で繁殖することができるね」と、鋭い観察力を披露した。

生物多様性というハンモックの上にいる

タネの模型を作る子どもたち

工作の時間が終わると、國府方さんはスライドを映し、子どもたちへのメッセージを投げかけた。自然豊かな日本には約7500種の植物が生育するが、人の営み等の影響によって生態系のバランスは崩れ、4種類に1種類が絶滅しつつあるという。「ヒトは生物多様性というハンモックの上にいる。生物多様性を大事にしましょう」

終了後は、高学年の子を対象に、閉館後の館内ツアーが実施され、数々の標本を前に、國府方さんが、じっくり解説を行った。

プログラム終了後に行われたガイドツアー

「せんせいのおはなしをきいてぜつめつきぐしゅをたいせつにしようとおもいました」(1年生)、「生物の関わりがあってこそ人間がいろいろなものを食べたりつくったりできることを知って、生物多様性がどんなに大切かを知りました」(5年生)。 

アンケートの筆致から、子どもたちが新しい知識をしっかり学んだ様子が伝わる。保護者からは「特別な時間を親子で過ごすことができた」「何げなく起きている現象や普段の日常の中には意味があったり、大切な自然のサイクルがあったり、ということに気が付けた素晴らしいプログラムでした」といった感想が寄せられた。

「プログラムを通じて、子どもたちが生活と社会問題がどのように関係しているかを学んだり、さまざまな体験をすることで、将来の職業選択にも役立ててくれることを期待しています」と、三菱商事担当者は微笑む。

三菱商事では、1973年に社会環境室を設置、現在は「インクルーシブ社会の実現」「次世代の育成・自立」「環境の保全」の3つの軸に沿った社会貢献活動を続けている。次世代の育成・自立においては、50年の歴史ある「親と子の自然教室」をはじめ、スポーツや自然体験、科学技術、芸術・文化など、多彩な活動で知られる。社会貢献の3つの軸が共鳴しあうような今回のプログラムは、50年余の連綿たる活動の賜物といえるだろう。

(取材・構成/編集部 和田紀央)

   

  • はてなブックマークに追加