共産党初の女性トップに「田村智子」/志位氏が異例の「後継指名」/90代の不破・浜野ら長老は引退か

号外速報(12月4日 06:40)

2024年1月号 POLITICS [号外速報]
by 佐藤綱五郎と本誌取材班

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第10回中央委員会総会(10中総)で結語を述べる田村智子政策委員長(しんぶん「赤旗」より)

共産党は2000年以来となる党首交代が確実となった。白羽の矢がたったのは田村智子政策委員長(58)――。

創設101年を迎える老舗政党で初の女性党首となる。野党共闘の不調に加え組織の弱体化が続く八方塞がりの中、サプライズ人事は党勢拡大へ功を奏すか。

党大会決議案の「起草委員長」に大抜擢

志位和夫委員長に代わって第29回党大会決議案の提案報告を行う田村智子政策委員長(11月13日開催の「10中総」で)

党内外に「田村委員長」誕生を印象づけたのは11月13~14日に開いた第10回中央委員会総会(10中総)だ。

2024年1月の党大会に諮る決議案を説明したのは志位和夫委員長(69)ではなく、田村氏だった。締めの「結語」も田村氏が務め「党大会の成功の先頭に私たち一人ひとりが立ち、必ず成功を勝ち取ろう」「強く大きな党をつくり、日本の『夜明け』を開こう」と声を張り上げた。機関紙「しんぶん赤旗」は連日、そんな田村氏を写真付きで大きく報じた。

当面の活動方針を示す決議案は数年に1度開く党大会で諮る。同党にとっては「生命線」ともいえるものだ。これまでは党トップの志位氏が、その説明役を担ってきた。序列にこだわる同党にあって、志位氏が田村氏に大役を任せたメッセージは強烈だ。しかも、田村氏に委ねる判断は、志位氏個人ではなく、党本部として機関決定していた。

10中総に先立つ10月10日の常任幹部会。この日、志位氏は田村氏を決議案の起草委員長に据えることを提案し「異論は出ずに総意として決まった」(党関係者)。

常任幹部会のメンバーは26人。志位委員長ら現役幹部だけでなく、理論的支柱である不破哲三前議長(93)ら古老が居並ぶ席上で正式に決議された。

今回の田村氏抜擢を志位氏自身はどう評価したか。10中総後の11月17日の記者会見にその答えはある。「異例の大役を任された田村氏が、志位氏の後継者に見えた」との質問に志位氏は終始笑顔で応じた。「決議案を見事にまとめあげた。立派に責任を果たされたと思っている」。10中総を世代交代への「慣らし」の場と捉えていたのは間違いない。

「10中総」に臨む常任幹部会委員の不破哲三氏(11月13日)

タムトモ曰く「私の個性はパッション!」

田村氏は長野県出身。早大第一文学部時代に共産党に入党した。大学卒業後、日本民主青年同盟(民青)に入り、石井郁子衆院議員や井上美代参院議員の秘書を務めた。国政選挙に5回、地方選挙に1回落選した。2010年の参院選で初当選し、現在参院3期目。次期衆院選で衆院比例東京ブロックにくら替えすることが決まっている。

「時の人」になったのは「桜を見る会」を巡る問題だ。2019年の参院予算委員会で安倍晋三首相(当時)をただすと一気に社会問題化した。翌年の20年に女性初の政策委員長に就いた。「タムトモ」の愛称で知られ、古さが残る共産党のなかで発信力の高い幹部として頭角を現した。

12月1日の記者会見で10中総について聞かれた田村氏は「私の個性はパッション。志位委員長をはじめ他の中央委員から『熱く聞くことができた』といわれて大変うれしく思っている」と述べた。

90代の古老が居座る現体制を刷新

「10中総」の壇上で並んで座った志位委員長と田村副委員長(右)

共産党の長期低迷を招いた理由に世代交代の遅れをあげる声は党内外に多い。

志位氏は委員長につくまで10年書記局長を務め、その後20年余にわたり委員長の座にある。この間、さらに上の立場から党運営に睨みを利かせてきたのが不破氏だ。10中総でも杖をつきながら歩く白髪姿の不破氏の姿があった。

「頭脳の明晰さはいまだ健在だが、体力の衰えは否めない」(党関係者)。不破氏の側近で副委員長として君臨する浜野忠夫氏(91)とともに世代交代が進まない象徴である。

不破に次ぐ90代の長老、浜野忠夫副委員長(左、10中総の壇上)

書記局長の経験がない田村氏が「2階級特進」で委員長に就けば初めてのケースとなる。次期衆院選に向けて他党との選挙区調整など実務があるため、小池晃書記局長(63)が続投する公算が大きい。

「志位氏は自らを書記局長に抜擢したミヤケン(故・宮本顕治氏)に倣い空席の議長に就任する。不破氏はさすがに引退だろう」――。古参の共産党員の見立てだ。

もっとも、表の顔を変えることが党勢拡大に直結するかといえばそれは全く別の話である。10中総では従来通り「米国いいなり」「財界中心」の政治を批判した。野党第1党の立憲民主党の立場とは異なり、主張を通し続ければ「野党共闘」が滞るジレンマを抱える。

党員の高齢化で組織の弱体化も進む。1990年に50万人近くだった党員数は2020年に27万人余りまで減った。小池氏は10中総で「党員拡大で、まだ現勢での前進という水準の運動にもなっていない」と訴えたが、これもまた改善に向けた解はない。

初の女性トップの登場により、90代の古老が居座る現体制の刷新が進むだろうが、その一方で党員を相次いで除名したことで露見した党の閉鎖性は影を落とす。

次期衆院選での党勢回復へ「ジャンヌ・ダルク」になれるか。

田村氏の戦いは既に始まっている。

「10中総」会場から退席する不破哲三氏(11月13日)

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佐藤綱五郎と本誌取材班

   

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