2024年1月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
ラジオ放送が1925年に開始してから2025年に100年を迎える。テレビは23年で70周年。ラジオの電波を発信したのは東京・港区にある愛宕山に建設されたアンテナ。当時の東京市区内では最高標高の約26mの地点だった。そこにはいま「NHK放送博物館」がある。
来館者に人気のコーナーは紅白歌合戦である。2代目の優勝旗や出演者の回数の番付などが飾られている。第74回となる23年のこの番組はテレビがメディアの王座からはっきりと滑り落ちたことを表す象徴的な出来事になるだろう。テレビの視聴率において「世帯視聴率」の過去最高は第14回(1963年)の81.4%である。
第72回(2021年)が過去最低の34.3%、22年の第73回はわずかに上向いた。23年は30%を切る、が筆者の予想である。23年の紅白のテーマは「ボーダレス 超えてつながる大みそか」である。国境を超える映像サービスにTVが窮地に立っているという皮肉と読める。
23年第3四半期のデジタル映像サービスの会員数の実数と前四半期と比べた伸びは驚異的である。Netflixは2億4720万人と880万人増えた。Amazon Primeは他のサービスと映像サービスが組み合わされているため、比較する数字がないがNetflixと覇を競っている。
インターネットにつながる「スマートTV」はもはや地上波やBSの受信機ではない。PCの大型モニターである。
放送法によってNHKの受信料は「NHKの放送を受信できる受信設備を設置した者」から徴収できる。「スマートTV」はこれに当たらない可能性が高い。NHKは財政危機を迎える。23年秋に受信料を1割引き下げた結果として24年度の受信料収入は5800億円、30年代前半には5千億円を切ると予測されている。民放キー局もデジタルの波に押し流されている。日本テレビの23年度上期の広告収入は前期比約65億円減の約1056億円である。東芝が自社のスマートTV約300万台の視聴時間を調べた結果では、YouTubeの占有率が6%超と民放キー局を超えている。
(河舟遊)