2024年1月号
POLITICS [「令和の風雲」]
by 河西宏一(衆議院議員 )
河西宏一(かさい・こういち)1979年新潟県長岡市生まれ、44歳。東大工学部卒業後、株式会社パナソニックに勤務。2021年10月衆議院議員総選挙で初当選。公明党学生局長、選対委員。
新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめた3年前、サラリーマン人生を歩んできた私は、公明党から次期衆院選(比例東京ブロック)の予定候補として公認を頂いた。「戦後最大の国難」の只中、政治活動を本格化させたことは生涯忘れない。
「まずは基本から」と東京各地を歩きに歩いた。以来、現場主義の真髄を、身をもって教えてくださる地方議員の諸先輩方に感謝は尽きない。
総選挙が近づくにつれ、国民の関心は「政権選択」よりも「世代交代」に向いていると肌身で感じた。
株式会社ファーストリテイリングの柳井正会長は「コロナで10年、歴史が早く回転し始めた。限界点が、思っていたより早く来た。変わるんだったら今でしょう」(日経ビジネス)と語り、「デジタル化の推進」「デフレ経済からの完全脱却」などは、たびたび改革の旗印として衆目を浴びる。しかし、わが国は、もっと根本的な問題をはらんでいると思う。
それは、「子どもが、下手をすれば大人でさえも、子ども扱いされ過ぎではないか」ということだ。
民法上の成人年齢18歳に達すると「親の同意を得なくても、自分の意思で様々な契約ができるようになる」(政府広報オンライン)。つまり、大人とは、「自分の頭で考え、決断し、行動に移せる人」で、これは、さほど異論がないと思う。
しかし、日本で「投票に行ってきました」と言えば褒められても、「デモに参加しました」と言ったら、果たして多くの人はどう反応するだろうか。2022年3月、連合が15歳~29歳のいわゆるZ世代を対象に行った調査によれば、「参加したくない社会運動」のトップは、ダントツで「集会やデモ、マーチ、パレードなど」。約半数の46・8%を占めた。
日本社会には、表立って周囲と違う意見を述べると、「KY=空気を読めない」とレッテルを貼られてしまうきらいがある。周りと合わせるのが「普通」であり、秩序を保つ「美徳」とされる。しかし、これが、いつしか「大人の階段」を登る機会を奪ってはいまいか。
計59回を数える日本財団の「18歳意識調査」によれば、17歳~19歳の62.9%が自分を「子ども」と感じていた(2018年、第1回)。理由のトップ「経済的に自立していないから」はある意味当然として、3番目は「十分な判断力があるとは言えないから(36.0%)」であった。22年調査でも、18歳の自分が「子どものまま」と回答した若者は過半数を超え、裁判員に選ばれた場合に不安に感じることは、「間違った判断をしてしまうこと(31.2%)」が最多だった。また、内閣府が平成30年に行った調査では、「自分自身に満足している」と明確に答えた若者(満13歳~満29歳の男女)の割合は、日本で10.4%に止まり、他の韓国(36.3%)、アメリカ(57.9%)、イギリス(42.0%)、ドイツ(33・0%)、フランス(42・3%)、スウェーデン(30・8%)の6か国と比べ、極端に低い。
日本若者協議会の室橋祐貴代表理事は、「欧米では、周りと異なる意見は『時代の先を行く意見』として評価され、デモへの参加も普通のことだ」と指摘する。「戦後、一度は民主化を志向した日本の教育は、学園紛争の激化などに伴い、高校生の政治活動を『教育上望ましくない』とした文部省の『1969年通達』を境に、管理教育へシフトした」「逆に、欧米では1960年代後半に世界各地で起きた学生運動を『スチューデント・パワー』と呼び、教育の民主化が加速していった」という。
目新しい意見を言い出せない雰囲気は、当然、イノベーションの芽を摘む。なぜ、かつて技術立国であった日本が、「デジタル後進国」などというレッテルを貼られてしまったのか。なぜ、かつて米国に次ぐ経済大国であった日本が、「賃金水準の低い国」になってしまったのか。産業政策や経済政策以前に、わが国には、内面が大人になりにくい「日本社会の壁」をぶち壊す改革が、不可欠ではないだろうか。
そこで、重要になるのが23年発足したこども家庭庁の役割だ。同庁は、「こどもや若者が様々な方法で自分の意見を表明し、社会に参加することができる、新しい取組」(こども家庭庁HP)として、「こども若者★いけんぷらす」をスタートさせた。
公明党も、2016年来、若者参加型の政策アンケート「ボイスアクション」に取り組み、最賃引上げ、携帯料金引下げ、不妊治療保険適用、幼保無償化などを、実現してきた。
しかし、政治行政が用意した枠組みで、子ども若者の意見表明や社会参画を図る仕組みは、もはや古くなってしまった。というか、とっくに海外は、この何手も先を行っている。歴史的に子どもの権利を重視する欧州では、例えば、スウェーデンの若者・市民社会庁の目玉事業に、若者団体への助成金がある。2019年実績で、約25億円(当時のレート)を105の子ども・若者団体に助成しており、同国が人口1千万人余りであることを勘案すると、その充実ぶりがうかがえる。
審査基準も明確で、「2年間の活動実績」や「会員の6割が6歳~25歳であること」などが挙げられる。
ここで言う「若者団体」とは、若者を支援や保護する団体ではない。若者が権利の主体となって活動する団体である。スウェーデン若者協議会には、32のユースカウンシルが加盟し、活動範囲は、被選挙権年齢の引下げといった政治分野のほか、文化、スポーツ、経済など多岐にわたり、同国の若者約7割が参加する。
若者団体への助成金制度は、ドイツやフィンランドにもある。これらの国々では、若年層の投票率が7割~8割と、極めて高い水準にあり、若者団体が重要な役割を果たしていることは、言うまでもない。
日本でも、ネット選挙解禁や18歳選挙権を皮切りに、次々と若者団体が誕生したが、長続きした団体は数少ない。財政基盤が脆弱であり、行政の支援も、貧困対策等に取り組む団体が主な対象で、若者団体をメインターゲットにした助成金は存在しない現実がある。「同様の制度を一刻も早く整備すべきだ」――私をはじめ公明党としても、こども家庭庁に働きかけてきたが、まず23年度の補正予算で、若者団体をめぐる「国内外での取組事例等に関する調査研究」に0.1億円が盛り込まれた。国家予算としては、決して大きい額ではないかもしれない。しかし、日本の未来を変える重要な予算だ。
11月14日、国会で、「こども基本法の基本理念には、若者団体の活動への後押しも含まれるのか」「含まれるならば、若者団体への財政措置を実現すべきだ」と質すと、加藤鮎子国務大臣は、「含まれる」「まずは、どのようなことができるか、しっかりと研究を進めたい」と応じた。
若者団体への助成金制度は、わが国で前例がなく、大臣答弁にも慎重さが滲んだ。しかし、「若者の、若者による、若者のための活動」を支える仕組みは、必ずや日本を前に進めるエンジンになる。まずは、こども家庭庁が「壁」を打ち破るべきだ。
最後に一点、付言したい。こんな話をすると、「秩序」の破壊に繋がると、懸念する人がいるだろう。
たしかに、秩序を重んじる国民性は、戦後の高度経済成長期や、大災害、パンデミックのようにやむを得ず選択肢が限られた時期は、一定の役割を果たしたのかもしれない。
しかし、今は違う。皆が日本丸という「大船」に乗って一方向に進めばよい、という時代ではない。わが国は大きな曲がり角を迎え、価値観も多様化するなかで、国民は家族や会社といった「小舟」に乗り、必死に荒波を乗り越えようとしている。また、世帯構成で最も多いのは、約4割に及ぶ単身世帯だ。独り「ボート」に乗る国民も、年々増えている。
今、国民に安心と活力をもたらすのは、「管理」よりも、「信頼」だ。国が国民を信頼し、力を引き出そうとする姿勢が、日本そのもののイノベーションに直結する。私自身、真の意味で日本を改革し、子や孫の世代に一歩前進した日本を託すため、全身全霊をかけて働く覚悟だ。
※「令和の風雲」は、各政党・会派の最若手の国会議員が筆を競い、「とっておきの持論」を述べる連載企画(不定期)です(編集部)