コロナ禍を越え「キャッシュレス」急拡大

消費データが行動を浮き彫りに

2023年10月号 LIFE

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買い物の際に現金でなく、キャッシュレス決済の利用が増えている。決済の現場で現金を扱う手間やコストがなくなり、より効率的な決済処理が進むほか、消費行動データの活用促進にもつながるとみられている。国もキャッシュレス決済の普及を推進している。決済の現場でいま、何が起きているのだろうか。

首都圏に暮らす40代の女性会社員は、スーパーで買い物をしてレジに並ぶと「電子マネーなどを利用する人が多く、レジの支払いがスムーズ」と感じている。

キャッシュレス決済はどれぐらい進んでいるのだろうか。経済産業省のまとめで、国内のキャッシュレス決済額比率は2022年に36・0%(111兆円)に達した。10年には13・2%だったが、この数年で急拡大している。22年のキャッシュレス決済額比率の内訳をみると、クレジットカードが30・4%とほとんどを占め、コード決済2・6%、電子マネー2・0%などとなっている。

年配層にも広がるキャッシュレス決済

最近のキャッシュレス決済拡大の背景として、経産省キャッシュレス推進室の担当者は、国が19年にポイント還元を推進するキャッシュレス・ポイント還元事業を導入し、民間側もこれに呼応して大規模なポイント還元事業を展開したことがあると指摘する。さらに、新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、「人々が衛生的な取引をしたい」と現金の接触を避ける決済行動に出たこともあるとみている。

キャッシュレス決済の利用者はどんな人たちなのだろうか。経産省の「キャッシュレス将来像の検討会」が今年3月にまとめた資料を見ると、年代層別でまんべんなく、年配層にもキャッシュレス決済が広まっている。一方、キャッシュレス決済の全体では、高額決済を中心にクレジットカードの利用が多いが、1000円以下の少額決済で「最近はQRコード決済が利用されるようになっている」(経産省担当者)という。コンビニの買い物などが対象になり、今後の伸びしろの部分が大きな分野になるとみられている。

キャッシュレス決済は世界的に普及しており、韓国や中国が8割、9割と高い比率であるほか、欧米諸国でも5~7割ぐらいになっている。日本政府は25年までに4割程度、将来的に8割を目指すとしている。

国内の直近の状況は、すでに4割に近づいており、目標の達成が早まりそうだ。経産省の担当者は、日本のキャッシュレス決済額比率に「振替が入っていない」という。自分の銀行口座から、電気料金など公共料金を引き落とす人が少なくないとみられるが、その決済は「キャッシュレス」としてカウントされていないのだ。さらに、鉄道の改札通過時に利用されるスイカやパスモなど交通系の電子マネーは、商品の買い物などにも利用が広がっている。キャッシュレス決済額比率には、交通系の電子マネーによる買い物を含めているが、肝心の鉄道利用料金の支払いを含めていないという。

経産省の検討会が試算したところ、21年のキャッシュレス決済額比率32・5%に対し、振替や鉄道利用なども含めると54・0%になると推計している。日本のキャッシュレス決済の実態は、欧米諸国並み水準になりつつあるようだ。

一方、コロナ禍の消費には、どんな変化がみられたのか、興味深いデータがある。三井住友カード会員の利用データを分析すると、19~21年にリアル店舗とオンラインで、消費の伸び率が高かったのが、いずれも生鮮食品だった。外食の自粛や宅配の利用拡大があるとみられている。一方、それ以外では、リアル店舗で「ペット関連」が2番目の伸び率となり、在宅でペットを飼う人が増えたことがうかがえる。オンラインでは、「映画・動画」が2番目の伸び率となり、在宅でレンタル作品を楽しんでいるようだ。オンラインの傾向として、娯楽関連の利用が増える傾向にある。

データ活用で消費行動が浮き彫りに

約1300万人の会員を持つ三井住友カードがキャッシュレスデータを活用したデータ分析サービス「カステラ」で、19年から23年7月までの決済データを見ると、より詳しい消費行動がわかる。衣、食、住、生活・健康・美容、旅・移動、遊・学、オンラインの7区分で見た決済額比率で、食は10%台半ばから3割前後に倍増している。オンラインもほぼ同様の傾向になっている。一方、旅・移動はほぼ逆の傾向だ。

さらに、カステラで43業種の今年3~5月の動向を分析すると、より直近の消費行動が手にとるようにわかる。スーパーやコンビニ、レストランやカフェなど「食」の分野はすべての業種で高い伸びを記録している。ほとんどで客単価は大きな変化がなく、客数の拡大が決済金額を押し上げている。

生活・健康美容、旅・移動の分野も、ほとんどの業種で高い伸びとなった。こちらも、総じて客単価の変動というより、客数が増えていることで決済金額が大きく伸びているとわかる。

遊・学の分野では、映画・劇場、レジャー・娯楽施設が高い伸びを続けている。客数の拡大が背景にあり、新型コロナウイルス感染症の問題が一段落して、人々が動き出してきたことをうかがわせる。

今後も国内外の人の動きが活発化するとみられ、こうした消費データが消費行動を裏付けていくのだろう。

(取材・構成/ジャーナリスト 浅井秀樹)

   

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