深層! あおぞら銀行が米「オフィスビル暴落」でピンチ

23年3月期の純利益は87億円。米商業用不動産ローンの追加引当によっては赤字に転落しかねない。

2023年10月号 BUSINESS

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あおぞら銀行の谷川啓社長(HPより)

米国や英国で商業用不動産の価格崩壊が始まり、デフォルト(債務不履行)に陥るオフィスビルが続出するなか、日本の主要行の一角「あおぞら銀行」の貸出ポートフォリオが市場関係者の間で不安視されている。

2023年6月末現在で、あおぞら銀行の貸出残高は4兆133億円。このうち海外向け貸出が1兆4598億円(145円換算、以下同)で全体の36.4%に上る。さらに子細にみていくと、商業用不動産を中心とする海外不動産ノンリコースローンが4025億円と、貸出全体の10%以上を占めている。不動産ノンリコースローンとは、融資する不動産事業から生じるキャッシュフローのみを返済原資とするもので、仮にデフォルトになっても他の資産等から回収できない融資形態のことだ。

これだけでもあおぞら銀行が危機的状況にあるように思えるが、事態はより深刻だ。海外不動産ノンリコ4025億円のうち、大暴落が起きているオフィスビル向けが2867億円と大部分を占める。しかもそのほとんどが話題沸騰の米国オフィスビル(2687億円)。残りも、米国とほとんど状況が変わらない英国オフィスビルである。つまり、あおぞら銀行の貸出ポートフォリオは「火薬庫」そのものなのだ。

米国や英国のオフィスビルで大暴落やデフォルト、ローンの延滞が頻出している実態は、本誌前号で報じた通り。コロナ禍で定着したリモートワークに加え、IT企業などで広がるレイオフ(一時解雇)によって空室率が上昇し、賃貸収入の激減を余儀なくされているオフィスビルが後を絶たない。

あおぞら銀行本店

あおぞら銀行の谷川啓社長は「保守的な評価に基づく十分な引当を行っている」として、損失への備えは手当て済みだと強調する。しかし、米国オフィス案件全体に対する引当率は5.6%にとどまっており、ある市場関係者は「米国の商業用不動産の変調はこれから本格化する。現在の引当率が十分な水準とは言い難い」と警鐘を鳴らす。

米国では2020年以降、コロナ禍の大規模な金融緩和によって大量のマネーが商業用不動産市場に流入した。超低金利がもたらす空前の不動産投資ブームに沸き、米MSCIによれば、米商業用不動産価格は22年7月にリーマンショック前のピークを63%も上回る「バブル」状態にあった。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的な利上げに転じたことで、不動産市場は一気に暗転していく。いまや政策金利は22年ぶりの高水準に達し、銀行がニューマネーを貸し渋るようになっている。そうした中で、23~27年に約400兆円もの米商業用不動産ローンが満期を迎える。コロナ禍の超低金利で借りられていたローンを、8%程度の高金利で借り換えなければいけなくなってしまうのだ。

高い空室率によって賃料収入が大幅に落ち込んだところに多額の金利負担が加われば、オフィスビルの大量デフォルトが現実味を帯びる。銀行は担保不動産の売却によって回収を図ることが可能だが、連鎖的な投げ売りによって不動産価格がピーク時の半値程度まで下がることは歴史が物語っている。LTV(借入金割合)が担保評価額の6~7割程度だとしても安心できないのが、商業用不動産ローンの恐ろしさなのだ。

あおぞら銀行の23年3月期の当期純利益は87億円。米商業用不動産ローンの追加引当によっては赤字に転落しかねない利益水準だ。FRBのパウエル議長は6月21日の議会証言で「(商業用不動産ローンを多く抱える銀行で)大きな損失が出ると予想している」と述べている。あおぞら銀行が損失を回避するのは困難か。

   

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