インタビュー/ローソン社長 竹増 貞信 氏(聞き手 本誌副編集長 田中徹)

営業利益1000億円 環境対応へコロナを好機にした「大変革委員会」

2023年6月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]

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1969年、大阪府池田市出身、大阪大学卒。三菱商事を経て14年、ローソン代表執行役員副社長、16年に玉塚元一氏の後を継いで社長に就任した。

――2022年度連結実績でコロナからの復活を印象付けました。

竹増 営業利益は550億円で前年比79億円の増益でした。コロナ禍から3年が経過して加盟店、クルー(店員)さん、取引先様、本部社員の力で次の成長が見えるところまで戻って来られた。

生活様式や価値観の変化を見て、立ち上げた「大変革実行委員会」で12のプロジェクトに取り組んだ結果、ピンチを大チャンスに変える手応えをつかむことができました。

――「ピンチをチャンスに」とは具体的に。

竹増 業界には「朝ピーク・昼ピーク」があります。しかし「夕夜間ピーク」はありませんでした。夕夜間にお客様が行かれるのはスーパー。コロナ前から、この需要を取り込まなければ成長は難しいと挑戦していました。そんなところ、ステイホームにより「遠くて人が多いスーパーより近くのコンビニ」という需要が生まれた。ただ「ローソンには豆腐や納豆といった食品、惣菜や衣類など日常生活用品は少ない」という声がありました。店舗を回りオーナーさん、クルーさん、お客様の声を聞き「店舗理想形追求」「商品刷新」をプロジェクトに置きました。その結果、おにぎり、ソフトドリンクなどの売り上げは、まだコロナ前の90%前後ですが、お惣菜や生鮮品、日配品、日常回りの商品はコロナ前を上回ることができました。

中国1万店は最初期の通過点

――値段を変えず47%増量した2月の「盛りすぎチャレンジ」はSNSでも非常に好評で話題になりました。

竹増 日々、変化や気付きがある3年間。気付きを必ず声に出し、やってみようと取り組んでいました。「盛りすぎ―」は、試食の時「こんなに盛って本当に食べられるのかな」とドキドキでした。2月は物価上昇が連日ニュースになった時期でもあり、お得感を感じて頂けたのかなと。納品が追い付きませんでした。やはり、やってみないと分からない。ご迷惑をおかけしました。また、ご期待に応えていきたい。

――1975年6月に1号店「桜塚店」(大阪府豊中市)ができ、25年に創業50年。25年に連結営業利益1000億円というチャレンジ指標を掲げました。

竹増 目標に不足はありません。中国事業はゼロコロナ政策の影響で、営業利益マイナス21億円となりましたが、23年からはまた黒字化のめどが立っています。現在の5600店を25年に1万店、営業利益100億円以上にします。これは最初期の通過点です。

エンタメ事業では、チケットプラットフォーマーの確立、アライアンスを含めライブと親和性の強いトラベル事業の垂直立ち上げを検討します。キャッシュレス化でATMのチャージ需要を取り込めています。23年は新札発行による設備投資で利益は落ちますが、ATMの拡大や「必要な時に必要なサービス」という新しいリテール事業を立ち上げます。

23年度は下限を200円として増配、25年度に向けて段階的な増配を実施。ROE(自己資本利益率)15%、EPS(1株当たり純利益)500円以上を目指し、株主還元を強化します。

――ローソン・ブルー・チャレンジ2050!では50年に食品ロス100%削減(18年比)と意欲的な目標を掲げています。

お客様と一緒に環境型店舗を

竹増 買い求めてもらえる食品・商品を作る、しっかり売り切ることを一生懸命にやります。当初から値引きにも積極的に取り組んでいます。一方、値引きだけでは、食品ロスをゼロにはできません。昨年11月にオープンしたグリーンローソンでは、冷凍食品とモバイルでのオーダーを使って、出来たての商品を提供しています。冷凍・解凍技術は上がっていて、味も非常に良く、お客様の評価は非常に高いと感じています。

――グリーンローソンではCO2削減にも取り組まれています。

竹増 50年に13年比100%削減が目標です。川崎市のモデル店舗では、電気使用量を40%、CO2排出量を55%削減しています。例えば冷蔵・冷凍品の「オープンケース」に扉をつけました。SDGsの認識が広がり、お客様にもポジティブに捉えて頂けています。30年までの中間目標はプラス・アルファで推移しています。そこから先はイノベーションが必要です。電力の使い手として持続可能な電力普及を後押しするためにもチャレンジします。

――以前からコンビニの店舗数は踊り場という指摘もあります。

竹増 コンビニの商圏は現在も2000人で、1店舗が運営できる人口が最も少ない業態です。少子高齢化・地方の人口減がクローズアップされる中、地方でも、役割は大きくなると考えています。

――エリアカンパニー制を拡大し、「地域密着×個客・個店主義」の進化を目指すと宣言されています。

竹増 迅速な意思決定と顧客ニーズに対応するためです。また、われわれは「店利益基軸経営」を掲げており、コロナ禍でも加盟店の利益は絶対に減らさないという思いで本部は動き、加盟店はそれに応えてくれました。毎週10~20分のビデオメッセージで「必ず皆さんのことは本部が守る。社長としてお約束する」と明言しました。当初「これだけ売り上げが下がってどうなるんだ」という声も頂きましたが、大変革実行委員会のプロジェクトを進め、「ローソンの加盟店で良かった」という手紙を頂き本当に嬉しかった。危機を一緒に乗り超えたことで、一致団結できました。

――ローソンに転じて24年で10年となります。

竹増 次の経営体制をつくることは、最大のミッションの一つ。最近「いつまでですか」とよく聞かれます。任期は1年ですから、区切りを持たず、信任を頂ける限り全力を尽くす覚悟です。一方で、ローソンとして次の100年を目指していかなければなりません。創業50年を勝手に自分の区切りにするのはおこがましい。一年一年を全力で頑張り、50年、100年と続くローソンになります。

(聞き手 本誌副編集長 田中徹)

   

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