愛犬を元気にしたい女性社員の思いと創業者・池森賢二氏の理念が、「愛犬に最高のごはん」を誕生させた。
2023年4月号 INFORMATION
グーディッシュ。(左上から時計回りに)フィッシュ、ホース、チキン、ベニソン。4種をローテーションできる
「グーディッシュ」は良質(GOOD)で特別な一皿(DISHES)の意味を込めて名付けられた。愛犬の食性に合わせて良質なタンパク質を含むベニソン(鹿)、チキン(鶏)、ホース(馬)、フィッシュ(魚)の4種の肉をベースにした味を用意。体調に合わせたフードローテーションを勧めている。例えばおなかの調子が良くないときは消化の良いチキン、皮膚が弱りがちなときはオメガ3脂肪酸を含むフィッシュを与えることで、アレルギーへの配慮ができるようになっている。消化のしやすさと栄養素をそのまま届けられるよう、製造してすぐに瞬間冷凍し、真空状態で乾燥するフリーズドライ製法を採用している。水を加えるだけで、つくりたての香り、風味を再現できる。長期間保存も可能だ。同社ECサイトや百貨店の外商で販売予定。
「ランは約1年、『GOODISH(グーディッシュ)』を食べています。毛並みも肌もツルツルのピカピカ。ワンコの体調は、毛並みを見ると分かるんです」
ファンケルの新規事業本部ペットフード開発部長、舩山尚子さんの愛犬ラン(メス7歳)はペキニーズとミニチュアダックスのミックス。毛並みも肌も美しい元気な姿だが、実はアレルギーと皮膚病に悩む身体の弱い子だった。舩山さんが手帳を取り出し、かつてのランの写真を見せてくれた。目が真っ赤に腫れて、元気もなさそう。そんなランが見違えるほど元気になった理由は、質の良い食事にある。
ファンケルが2月から発売した「グーディッシュ」は、ファンケル初のペットフード。舩山さんのランへの愛情、そしてファンケルの経営理念が反応して誕生した。
グーディッシュのベニソンベース
生後数カ月のランを飼い始めたのは2016年から。ランは苦しんでいた。肌はボロボロで、元気もない。療法食やスキンケア、薬などを試したが、一進一退だった。
小学生のころから犬を飼い、30年以上の飼育経験があった舩山さん。「犬のことはなんでも知っている」と自負していた。しかし、ランがおやつのチーズでアナフィラキシーショックを起こした時「根本的に間違っていたのではないか」と思い直した。「体を作るのは食事、食事の質を見直すべきではないだろうか」
舩山尚子さん
ネット検索すると、例えばキャベツは繊維質があって良い、一方でキャベツは食べすぎると毒になるといった情報が氾濫していた。舩山さんは「信じるべきは学術論文、文献だ。自分で勉強しよう」と一念発起。畜産学科を卒業し1993年に入社。化粧品の処方開発、工場生産技術に携わり素地は十分だった。後に日本ペット栄養学会のペット栄養管理士も取得した。
人間と同じく、身体づくりの基礎はタンパク質。ただし「単純にタンパク質が多ければよいわけではありません。腸内環境を整えることも大切です」と舩山さん。食事の基礎からアレルギーまで多岐にわたって学び直し、食事を改善することでランの体調も良くなっていった。
18年5月。群馬工場長だった舩山さんは、社内の「池森経営塾」に参加する。創業者、池森賢二氏の下、社員十数人が幹部育成研修を受けた。そこで化粧品、健康食品に続く同社第三の柱となる新規事業の提案を求められた。舩山さんは振り返る。
舩山さんの愛犬ランちゃん
「犬の健康について勉強して、ランの調子が良くなりつつある時、偶然にも池森塾に参加することになりました。自分の生活課題と会社の理念が一致して、新規事業としての可能性に気がつきました。皮膚に何かしらの疾患を持つワンコは約20%いるそうです。『弱いワンコのために、しっかりした品質のものを提供すべき』と提案しました」
化粧品による肌トラブルが問題となっていた1980年代、「添加物を使わず、人の肌を美しくする本物の化粧品を届けたい」という池森氏の思いから誕生したファンケル。経営理念は「不安・不便・不満…『不』のつく言葉を世の中からなくしたい」。池森氏は舩山さんにこう声をかけた。
「ペットフードにも『不』があるなら、ファンケルが解決する意義がある。予算やターゲットといった余計なことは考えず、犬のことだけを考えて作りなさい」
池森塾での議論やペットフードメーカー、小売店へのヒアリングをまとめ島田和幸社長に提案、20年9月にGOサインが出た。犬にとって最適なタンパク質、生と加熱どちらが良いか、安全に流通させる方法は――。獣医師の社員も加わり、開発を進めた。
消化のよい低温加熱のタンパク質に、野菜やキノコ類、腸内の善玉菌の栄養となる水溶性食物繊維を配合した。便を見ると、すぐに効果が実感できる。消化吸収が良いため小さく、ニオイもなくなる。一般的なドライフードとグーディッシュを比較したところ、消化率が有意に高いことが実証されており(ファンケル総合研究所)、1カ月、2カ月経つと毛艶も見違えるという。
高齢化や一人暮らしの増加で、ペットによる飼い主への癒やし・健康効果に注目が集まっている。21年の犬の新規飼育数は約39万7千頭で、新型コロナ流行前(19年、約35万頭)より高く推移している(国立社会保障・人口問題研究所)。家族であるペットの健康は、飼い主の健康にもつながるだろう。
「グーディッシュの開発を通じて、品質は本当に大切なのだなと実感しました。ランが食事の大切さを教えてくれました」。「グーディッシュ」は、舩山さんとファンケルが自信を持って送り出す『愛犬にとっての最高のごはん』だ。
(取材・構成/副編集長 田中徹)