巨額損失につながる火薬庫を抱え八方塞がり。その原因をつくったのがSBIグループなのだから、やるかたない。
2023年4月号 BUSINESS
SBIの北尾社長
おしなべて経営環境が厳しい地方銀行の中でも、際立って業績悪化が目立つ地銀がある。山形県のきらやか銀行だ。全国の地銀99行の中で、今期の決算が赤字なのは同行だけ。第3四半期(12月期)時点で46億円の純損失を計上し、これに伴い同行と仙台銀行を傘下に持つ親会社のじもとホールディングス(HD)も33億円の赤字に陥った。きらやか銀行の業績不振により、じもとHDは通期でも40億円の赤字予想だ。
きらやか銀行の今期の赤字は、2月末に民事再生法の適用を申請したトガシ技研への貸倒引当金が主な要因だが、実は同行にはもう一つ、巨額損失につながる火薬庫がある。有価証券の評価損だ。しかも、その直接的な原因をつくったのが、17%超を出資して支援しているはずのSBIグループなのだから、やるかたない。
きらやか銀行は2020年9月期に43億円に上っていた有価証券の評価損を一括処理し、その年の11月にSBIグループと資本業務提携を結んで「第4のメガバンク構想」に加わった。提携の柱は、投資助言契約に基づく有価証券運用の委託。SBIに有価証券運用を託すことで、評価益を生み出すポートフォリオの再構築が期待された。しかし、結果は惨たんたる有り様だ。外国債券型の投資信託を主体とする極端なポートフォリオを組んだ結果、評価益どころか海外の金利上昇によって再び評価損に転落。提携後の21年3月期にすぐさま26億円の評価損が発生すると、その後は坂を転げ落ちるように悪化の一途を辿り、直近の22年12月期には180億円にまで評価損が膨らんでいる。
ほかの地銀は債券売却による損失処理に動き始めているが、きらやか銀行はほとんど処理できていない。損失処理で決算の純損失がさらに膨らむと、今度は資本問題が深刻化するからだ。
きらやか銀行は、リーマンショック後の09年と東日本大震災後の12年に公的資金を申請し、総額300億円が注入されている。このうち200億円の返済期限は来年9月末。同行の自己資本比率は現在8%程度で、200億円を返済すると最低基準の4%をわずかに上回る5%程度まで比率が下がってしまう。こうした中で評価損を処理すると自己資本が一段と棄損してしまうため、身動きが取れない状況なのだ。
自己資本を大幅に強化することが問題を解消する唯一の道だが、ここでも大きく躓いている。昨年5月、きらやか銀行は3度目となる公的資金の申請に乗り出すことを表明したが、11月には「申請時期を慎重に検討していく」(川越浩司頭取)と事実上の凍結に追い込まれた。金融庁が「NO」を突き付けているからだ。
きらやか銀行が申請しようとしている公的資金は金融機能強化法に基づくもので、中小企業の資金繰り支援が目的だ。だが、同行の場合は、赤字補填のために公的資金で救済してもらう意図が見え見え。しかも、現在は「コロナ特例」の公的資金が適用されるため、従来のような返済期限もなければ、経営者責任も問われない。金融庁幹部は「きらやか銀行にコロナ特例の公的資金を注入したら、今度は金融庁が『法の趣旨を逸脱している』としてバッシングを浴びることになる」と本音を明かす。
きらやか銀行は今年度、都市対抗野球大会に3度出場したことがある野球部の無期限休部を決定するなど、少しでも経費を削って来期以降の黒字を確保しようとしている。しかし、莫大な評価損の前には焼け石に水。たとえ評価損を処理することなくわずかな黒字を確保したとしても、やはり公的資金の注入には疑問が残る。SBIの出資が仇となるか。