スクープ! 山形新聞がまさかの実名報道/寒河江社長は「プーチン」か/「明日は我が身」の地元議員/一部で不買運動も

号外速報(11月11日 21:30)

2022年11月号 BUSINESS [号外速報]

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山形市にある山形新聞本社

「これで実名報道はやり過ぎ」「公開処刑だ」――。

創業146年の歴史を誇り、県内で圧倒的なシェアをもつ山形新聞に、いま各方面から批判の声が挙がっている。

記者に謝罪した共産党県議を「血祭」

ことの発端は、7月8日朝刊に掲載された1本の記事だった。「本紙記事を無断投稿」との見出しがついた500文字ほどの記事。内容は「関徹県議(共産)が、山形新聞の紙面を撮影した画像を無断で自身のフェイスブックなどに投稿していた。2019年8月以降に約20件。投稿した理由は『自分の県議活動の報告として記事を引用した』」というものだった。

新聞は制作した新聞社の著作物で、ツイッターなどのSNSに無断で紙面を載せる行為は著作権法違反にあたる可能性がある。それを知らずに投稿していた県議の行動は軽率とも言えるが、問題は実名で報じられたことだ。

新聞などの大手メディアは加害者側も原則、実名で報道する。

ただし、警察に逮捕された容疑者や、任意の事情聴取を受けた人を実名報道するケースが大半で、今回のように警察が捜査をしていない段階での私的投稿で実名を出すというのは異例も異例だ。しかも県議は事前の同紙記者の取材に対しきちんと謝罪した上で、画像をすべて削除することも約束している。

「山形新聞の記事を見て、他社はみな驚きました」と語るのは地元のメディア関係者だ。

「なぜこれで実名を出すのか、理解できなかったです。通常はあり得ません。議員の無断転載に対して、紙面を使った私的な報復ではないかとも思いました。もともと、山形新聞の記者が県議の投稿を偶然見つけ、上司に報告。その後、話が大きくなり、『けしからんから実名で書け』となったと言われています」

この関係者によると、山形新聞社内では「記事化はおかしい」「当事者間で解決する問題」という真っ当な意見も出たとされるが、すべて封殺されたようだ。

「なぜ、私だけが報じられたのか?」

憤懣やるかたない鶴岡市の草島進一市議(本人のHPより)

山形新聞の「暴走」はその後も続く。

次なる標的は鶴岡市の草島進一市議。10月21日の紙面で関県議と同じように、「山形新聞の記事画像を無断でSNSに投稿した」と実名で報じられた。

草島市議によると、27日に開かれた鶴岡市議会運営委員会で、議長を含む少なくとも2人の市議が同様の無断投稿をしていたことが判明する。2人は山形新聞の取材を受けたことを明らかにしたが、2人が紙面で報道されることはなかった。草島市議は憤慨する。

議員70人の無断転載を報じる11月2日の山形新聞

「なぜ、私だけ報じられたのでしょうか。私も事前に記者さんから指摘を受け、謝罪し、画像をすべて削除することを書面で誓約しています。ほかの2人は口頭注意で、私は実名報道。疑問しかありません」

草島市議は「私だけ実名で報じた判断基準の根拠を教えて欲しい」という主旨の質問書を山形新聞に送った。後日戻ってきた回答はこうだった。

「事案の内容(当社とその関係者の名誉や品位を損ねるか否か、無断転載の目的、内容、件数、文字数、時期など)により、総合的に判断しています」

「これはまったく回答になっていません。無断で転載した目的は議員みな同じなはずです。新聞社側のいう『総合的に判断』とは何でしょうか。明確な判断基準がないまま、特定の議員を狙い撃ちしているとしか思えません」(草島市議)

無断転載70議員中6人を「公開処刑」

確かに首をかしげたくなる山形新聞の報道。同社はその後、大がかりなSNSパトロールをおこなった。その結果、県内の公職者70人が同じような無断転載していたことが分かったという。内訳は国会議員4人、県議12人、市町長3人、市町議51人。11月8日の紙面では、このうち6人(県議2人、市議4人)のみ実名が報じられた。

ある自民党関係者が言う。

「名前が出た人は『なぜ自分が?』と思っているし、出ていない人も『いずれ私も出されるかも』と戦々恐々としています。来春は県議選があり、この時期の実名報道は致命的。生殺与奪を新聞社に握られています。あまりの乱暴なやり方に、一部で不買運動を起こそうという話も出ています」

一連の報道はだれが主導しているのか? 

政財界への取材を進めると、山形新聞社長で主筆の寒河江浩二(さがえひろじ75)氏の存在が浮かび上がった。同氏は記者からのたたき上げで、編集局長などを経て、2012年6月に今のポジションに就任した。読売新聞グループ本社の渡辺恒雄氏のように長年、社長と主筆を兼ねており、同社で絶対的な権力を握っている。

また、経団連の傘下で山形県経営者協会という組織の会長も2015年からしている。

「寒河江氏は実質、地元経済界のトップです。でも、過度な権力意識から『山形のプーチン』と揶揄されることもあります」(財界関係者)

主筆も兼ねる社長は関与せず?

外部の評判がいまひとつの寒河江氏。FACTA編集部は、一連の報道に対する質問状を山形新聞に送った。

内容は3点。①議員の無断転載を匿名ではなく実名で報じたのはなぜか ②一部の議員のみ実名で報じているのはなぜか ③個々の議員を実名にするか匿名にするかは寒河江氏が主導しているという噂があるが事実か――。

これに対する山形新聞の回答はこうだった。

①と②は「総合的な判断によるものです」、③については「事実ではありません」

だが、主筆も兼ねるワンマン経営者が、こうした一連の報道に深く関わっていないというのは甚だ疑わしい。

同社の暴走が止まる日は、果たして来るのか。

   

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