「規制委」から民主党色一掃! 原発再稼働に動く「黄金の3年」

この1カ月の再稼働を巡る情勢は電力業界の2勝1敗、BWRで2勝した意義は大きい。

2022年7月号 BUSINESS

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花角英世氏が大勝した新潟県知事選 (公式HPより)

任期満了に伴う新潟県知事選挙は5月29日投開票され、無所属で現職の花角英世氏(自民支持、元運輸・国交官僚、64)が再選され、新人で住宅メーカー副社長の片桐奈保美氏(共産、れいわ、社民推薦、72)を破った。得票数は花角氏が70万3694票、片桐氏が20万3845票で、約50万票の大差がついた。

花角氏は東京電力・柏崎刈羽原子力発電所の再稼働について、県独自の検証作業を進めた後に「責任を持って私の考えを県民に説明し、県民の意思を確認する」と記者団に述べた。片桐氏は「柏崎刈羽原発の再稼働に断固反対」と論陣を張ったが、支持が得られず、伸び悩んだ。選挙直前に新潟日報が実施した世論調査で、次の知事に求める政策の1位は「景気・雇用対策」で38%を占めた。「原発問題への対応」は5番目の8%にとどまり、選挙戦での争点から外れた。ロシアのウクライナ侵攻で世界のエネルギー供給網が混乱、天然ガス・原油価格が高騰して日本の電気・ガス代が値上がりするなど市民生活を脅かしたことが投票行動に影響した。自民党の茂木敏充幹事長は5月30日、「責任を持ってバランスの取れたエネルギーミックスを作る必要があり、単なるスローガンのように何かをゼロにすることには理解が広がらなかったのが今回の結果」と胸を張った。

規制委から民主党色一掃

茂木幹事長 (写真/堀田喬)

全国で唯一、県庁所在地に立地する中国電力・島根原発2号機(松江市)について、島根県の丸山達也知事は6月2日、再稼働への同意を表明した。松江市は既に同意しており、再稼働に必要な地元同意の手続きが完了した。反原発を掲げる朝日新聞は「島根2号機は、事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型炉(BWR)で、東日本大震災後に再稼働した例はない」とわざわざ書き、「BWRだから事故を起こした」という印象操作を図った。だが、炉型が事故原因でないことはこれまでの調査で明らかになっている。

現在、国内で再稼働しているのはBWRとは方式の異なる加圧水型炉(PWR)ばかり。そのPWRでも動きがあった。北海道電力の泊原子力発電所(北海道泊村)に対し、道内の住民らが廃炉や運転差し止めを求めた訴訟の判決が5月31日、札幌地裁であり、谷口哲也裁判長は「津波に対する安全性の基準を満たしていない」などとして運転差し止めを命じた。一方、廃炉の請求は棄却した。化石燃料の高騰や再生可能エネルギーの不安定さが表面化し、原発に追い風が吹く中での敗訴に、北海道電力以外の電力会社は「裁判対策が下手すぎる」と批判した。

この1カ月間の原発再稼働を巡る情勢は電力業界の2勝1敗だが、BWRで2勝した意義は大きい。世界の原発はPWR302基に対し、BWRは61基で、数の上でPWRは5倍の優勢だ。PWRは元々、原子力潜水艦「ノーチラス」に搭載する目的で米ウエスチングハウスが開発した炉だけに空母や潜水艦との相性が良い。軍事転用ポテンシャルの高さが各国のPWR採用をプッシュした。ただ世界で唯一、日本だけはPWR16基、BWR17基で逆転している。国内で多数派のBWR再稼働は、厳しさを増す一方の電力需給緩和に貢献する。

岸田文雄首相も意を強くしただろう。今年夏の参院選を制すれば、国政選挙に振り回されることなく、自身が掲げる政策の実現に集中できる「黄金の3年」が待っている。日本経済新聞社とテレビ東京が実施した世論調査(5月27~29日)で、岸田内閣の支持率は66%だった。1月1日時点の参院勢力で見ると、与党の非改選議席が68ある。自公で57議席を獲得すれば参院での過半数である125議席は維持できる。今の支持率なら容易にクリアできるハードルだ。

岸田首相は5月27日の衆院予算委員会で、玉木雄一郎委員(国民)の質問に答え「エネルギー価格の安定や安定供給、温暖化対策といった観点を踏まえ、原子力の最大限活用が大事」と延べた。「黄金の3年」に突入すれば一気呵成で原発再稼働に動くのは必至だ。

布石も打った。3月25日、参議院本会議で原子力規制委員会の委員長に山中伸介委員が就任する人事案を賛成多数で承認した。2012年9月に発足した規制委の初代委員で現委員長の更田豊志氏は9月21日の任期満了をもって退任する。更田氏が外れると規制委は発足当初の委員が完全に入れ替わる。つまり当時の民主党政権色を帯びたメンバーは一掃されるのだ。

山中氏は大阪大学で核燃料の安全性研究に取り組み、その分野では第一人者。17年に阪大副学長を退いて委員に就任し、原発や試験研究炉などの新規制基準適合性審査に加え、検査制度の見直しなどを担当した。業界紙の電気新聞は「審査会合では専門的視点からの冷静な進行に努める姿がみられる」と好意的に紹介し、電力各社の歓迎ぶりをうかがわせた。逆に、立憲民主党や共産党はそのスタンスを警戒し、山中氏の人事案に反対した。

「骨太の方針」も前のめり

出力変動が大きい再生可能エネルギーは、英国や米カリフォルニア州では停電危機を招いた。日本における太陽光発電設備の総出力は6千万キロワットを超え、今や中国、米国に次ぐ世界3位。その分、停電リスクも高まる。今年3月22日、東京電力管内で電力需給が逼迫した一因は、天候不良で太陽光発電の出力が低下したところに、寒さで暖房用の需要増が重なったせいだ。脆弱な再生エネを補う役割の火力発電所は燃料の高騰、設備の老朽化、脱炭素化という三重苦にあえぐ。

このため、世界では原子力発電に対する再評価が進む。欧州委員会は2月、持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」において、原子力と天然ガスを「脱炭素化への移行期に必要な発電技術に含める」と発表した。フランスのマクロン大統領は大型軽水炉の建設再開を宣言し、オランド前大統領が進めた原子力依存引き下げの方針を事実上撤回した。米国、英国、カナダはコスト競争力が高い小型モジュール炉(SMR)開発に突き進む。日本でも日立製作所や三菱重工業などがSMRに取り組む。

政府は6月3日、与党に示した「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」で原発再稼働について「厳正かつ効率的な審査」という表現を盛り込んだ。21年版の骨太の方針で示した「安全最優先の原発再稼働を進める」よりも前のめりだ。山中・次期委員長率いる原子力規制委が「効率的な審査」に当たる。原発については「最大限活用する」と明記した。これまでの「必要規模を持続的に活用していく」よりもはるかに積極的な姿勢だ。SMRが活躍する舞台は整った。岸田首相が「黄金の3年」をどう使うのか――。輪郭が浮かび上がってきた。

   

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