トヨタ狙う「環境総会屋」にご用心

機関投資家と連携して狙う株主提案には的確で鋭い指摘も多い。ガバナンス改革の一助となるのか。

2022年7月号 BUSINESS

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グリーンピースが最下位格付けをした翌月にトヨタはEVの販売目標を引き上げた

Photo:Jiji Press

国際的な環境NGOであるグリーンピースが最近、トヨタ自動車の少数株式を取得し、モノ言う株主(アクティビスト)として環境対策の強化を迫る株主提案の実施に向けて動いている。

トヨタVS.グリーンピース

グリーンピースの動きで注目すべきは、機関投資家に同調を求めている点だ。今年5月19日、内燃機関の新車の販売停止とEVなどの導入拡大を一緒に働きかけるプロジェクトを開始した。これが今後、トヨタのコーポレートガバナンスに大きな影響を与えることになるかもしれない。

米国では、株をわずかしか持たない株主が機関投資家と連携することで、これまでのガバナンスを揺るがす事態が起こっている。

0.02%の衝撃――。こう指摘されるのは、昨年5月にあった米石油メジャー、エクソンモービルの株主総会で0.02%の株式しか保有していないアクティビストのヘッジファンド、エンジン・ナンバーワンが委任状争奪戦に勝ち、取締役3人を送り込むことに成功した事案だ。

この背景には、気候変動に対する取り組みに関して情報開示や取り組みが積極的でなかったエクソンモービルに対して、機関投資家であるカリフォルニア州教職員退職年金基金などが不信感を募らせ、アクティビストの提案に賛同したことがある。

グローバル企業であるトヨタがこうした動きを知らないはずがない。昨年11月にグリーンピースが世界の自動車大手10社の脱炭素化の取り組みを調査し、トヨタが最も遅れているとして最下位に格付けすると、同社はその翌月には、それまで2030年におけるEVの販売目標を200万台としていたのを、一気に約80%上積みして350万台にまで引き上げると発表した。

記者会見した豊田章男社長は「これでカーボンニュートラルに後ろ向きと言われるなら、何台売ればいいのですか」と訴えかけた。

3カ月前の9月にトヨタは30年のEV販売目標は200万台と発表したばかり。「EVシフトを急激に進めれば、日本の産業構造が崩れる」と豊田氏は言い続け、御用メディアを使ってその主張を社会に拡散してきた。ところが、わずか3カ月間で8割の上方修正。堅実なビジネスを展開してきたトヨタのこれまでの動きとは明らかに違っており、「エクソンモービルの教訓」を意識しているとみられる。

すでに日本企業も機関投資家と組んだ環境NGOの「洗礼」を受け始めている。今年5月、HSBCアセットマネジメント、仏アムンディなど欧州系の機関投資家3社と、豪州のESG推進の非営利団体であるACCRが電源開発(Jパワー)に対し、50年までに二酸化炭素排出実質ゼロを達成するための事業計画の策定や公表などを求める株主提案を行った。6月28日に開催される株主総会で諮られる見通しだ。

Jパワーの発電能力の40%近くが石炭火力で占められていることが株主提案の背景にある。この提案に対してJパワーは「脱炭素と電力の安定供給を両立させるには、様々な電源を組み合わせて活用する必要がある」などとして反対の方針を示した。

日本で環境NGOによる株主提案が本格化したのは20年のみずほフィナンシャルグループに対するものからだ。日本のNPO法人「気候ネットワーク」が、年次報告書での気候変動に対する取り組みの開示を定款で定めることなどを求めた。この提案が脱炭素化に関す国内初の株主提案といわれた。

気候ネットワークは21年にも三菱UFJフィナンシャル・グループに同様の提案を行った。みずほへの提案に対しては34.5%の株主が賛成に回り、その中には国内機関投資家の野村アセットマネジメントやニッセイアセットマネジメントのほか、みずほ系のアセットマネジメントOneも入っていたという。三菱UFJFGへの賛成率は23%。いずれも株主総会では否決された。

日本の会社法上、株主提案できる内容は株主総会で決議できる内容に縛られるため、利益剰余金の配分、取締役選任、定款変更の主に3つに絞られる。このため気候変動対応について株主提案で迫る場合には、定款変更を求めるが、これには株主の3分の2以上の賛成が必要なためにハードルが高い。

さらに気候ネットワークは今年4月、オーストラリアの環境NGO「マーケット・フォース」と連携し、三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、東京電力ホールディングス、中部電力に対して、気候変動に関する対策強化を求める株主提案を行った。

三井住友FGに対しては「化石燃料事業に融資し続けている」、三菱商事に対しては「LNG(液化天然ガス)の新規開発を続けている」などと指摘。産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える世界目標に合った事業計画を作り、短期と中期の両方の視点で二酸化炭素などの削減目標を提示するように求めた。

東電と中電に対しては日本政府の目標である50年に温室効果ガスゼロを達成するために、火力発電所を年次ごとに評価するように求めた。

高まる機関投資家の賛同

こうした要求について、裏付けのあるデータ作りが無理のケースや、データはあっても企業秘密で開示したくないケースがあるというのが企業側の本音だ。

さらにウクライナ危機が引き金になってエネルギーの価格高騰の問題が起きている中で化石燃料の使用をさらに抑制すれば、電気料金やガス料金はさらに値上がりし、市民生活に大きな影響を与えるのに、環境NGOは自分たちだけの目標を達成すればいいのか、といった反論もある。要は「環境原理主義」に対する批判だ。

また、環境NGOは「令和の総会屋ではないか」といった指摘もある。中には寄付すれば株主提案を取り下げるところがあるという声も出ているのだ。

ただ、世界の潮流を見ると、環境NGOによる株主提案に対する機関投資家の賛同は高まる傾向にある。21年に米デュポンに対するプラスチックペレットの取り扱い基準の開示提案では賛成比率が31%だったという。

地球温暖化の問題だけではなく、米中対立やウクライナ危機など地政学的リスクの高まりでグローバリゼーションの在り方の見直しが進む中、複雑で多様な価値観の下で投資マネーも動く。こうした局面で肝要なことは、多様な価値観と対話できるかだ。内輪の論理で物事を進めるのが得意な日本の大企業に果たしてそれができるのかが問われ始めている。

   

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