化粧品容器を再生した植木鉢に込めた環境保護の願い
2022年4月号 INFORMATION
サステナブルやSDGs、カーボンニュートラル……など、再生可能な社会を望む言葉が世界中で叫ばれている。環境の悪化は、地球とそこに生きる生物や、私たち人間の生存にとって切実な問題となっているからだ。
今では、企業の環境保護に対する姿勢は、市民や消費者から注目されている。その中で、環境問題に、10年以上前からユニークな方法で取り組んできた企業がある。化粧品・健康食品などの製造・販売を行うFANCL(本社・横浜市。以下、ファンケル)である。
花と緑を楽しめる「ガーデンネックレス横浜」(昨年)
同社が現在行っている環境保護の取り組みのひとつに、「FANCL リサイクルプログラム~花と緑を広げよう~」がある。 このプログラムを担当する化粧品商品企画部の平野大起さんは話す。
「横浜市が主催する『ガーデンネックレス横浜2022』という花と緑で豊かな環境を作るイベントが、3月26日から6月12日まで(ともに予定)開催されます。そのイベントにおいて、来場されたお客様に、ご家庭でも花と緑を楽しみながら環境問題を考えていただければと、小さな植木鉢をプレゼントさせていただきます。この植木鉢は、リサイクルプログラムでお客様から回収した弊社の使用済み化粧品容器を協力会社と共同でリサイクルして作りました」
「FANCL リサイクルプログラム~花と緑を広げよう~」を担当する平野大起さん
平野さんは、このプログラムの発案者でもある。高校時代から地球環境への意識が高かったという平野さんは、大学では生物を専攻し、環境の大切さを再認識した。
ファンケルに2013年に入社後は、おもに化粧品の開発を担当した。メイク落としなどのスキンケアを企画・開発する一方で、廃棄される容器について考えることがあった。
「化粧品は機能や効果だけではなく、ブランドの世界観をあらわす容器の美粧性が重要です。飲料用などのペットボトルは自治体で回収されてリサイクルされていますが、化粧品容器の多くは、焼却処分されているのが現状なのです」(平野さん)
化粧品のように見た目にきれいな容器は、着色料や添加物が含まれていたり、金属の箔押しがされていたり、異なる素材が積層されていたりして、リサイクルがむずかしい。そこでファンケルは容器の改革に取り組んだ。
「弊社がまず始めたのは、容器の軽量化によってプラスチックの使用量を減らすことでした。2009年から容器の軽量化に取り組み、2020年には主力製品のつめかえ用を発売し、約82%プラスチック使用量を削減しました。さらに、原料を石油由来のプラスチックから植物由来のものに変更し、リサイクル可能な素材を多用するなどして素材代替を行いました」(同前)
現代社会に生きる私たちにとって、脱プラスチックやカーボンニュートラルの生活に一挙に切り替えるのは、極めてむずかしい。再生可能な社会を実現するには、着手しやすい部分から始めて、賛同者を増やし、活動を持続させることが現実的なのだ。
その点、ファンケルは、07年から、従業員が「家庭でエコプログラム」という、電気、水道、ガスの全使用量を「マイナス5%」にする活動に取り組んできた。21年からは、従業員参加型の活動「グリーンチャレンジ」をスタートさせた。この活動は、職場での紙の使用量の削減、エコバッグ・マイボトルを利用してプラスチックの削減を行っている。また、ごみ拾い活動に参加することなども目標にしている。
その延長線上で、ファンケル製品を愛用されているお客様に容器回収に参加していただく活動「HAPPYエコ」の一環として始めたのが、前述の「FANCL リサイクルプログラム~花と緑を広げよう~」。この活動には、従業員も参加している。
回収ボックス(上)とシードペーパー
回収するのはPET(ポリエチレンテレフタレート)製の化粧品容器で、同社のマイルドクレンジングオイル、ピュアモイスト泡洗顔料、無添加スキンケア各ラインの計21品目。回収は、横浜市内の直営店と、東京・銀座スクエア店など計9店舗に設置された回収ボックスで今年3月31日まで行っている。ちなみに、回収ボックスは、リボードという環境に配慮した段ボールでできている。
容器回収にご協力いただいたお客様には、再生紙に花の種を漉き込んだシードペーパーをプレゼントされる。
容器をリサイクルするにあたっては、ファンケルの特例子会社・ファンケルスマイル(1999年設立)で素材ごとに分別し、洗浄し、乾燥する。おもに働いているのは知的障がい者の皆さんである。
平野さんがファンケルスマイルを訪ねると、従業員の方がこう話したという。
「(容器を)分別するのは、リサイクルするためです。リサイクルするのはボトルなので、ボトルをしっかり洗います。ボトルを洗わないとリサイクルできません」
平野さんは、「みなさん、作業の意味を理解して、自分の言葉で説明されます。それだけに、仕事はていねいです」と話す。 ファンケルグループの障がい者の社員比率は現在約4%。「将来的には、職種を拡大して、社員比率5%を目指しています」(平野さん)。
ファンケルのコーポレートスローガンは『正直品質。』。正直な商品を、品質第一に考えて提供する会社は、地球環境にも配慮ができて、人間、そして社会的弱者にもやさしい。
(取材・構成/編集委員 河崎貴一)