自民党内での人気が急落。性格と親中、一貫性のなさ。最大の理由は実績のない軍師の存在だ。
2022年1月号 BUSINESS
国民からの人気が高い自民党の河野太郎・広報本部長の与党内での人気が総裁選後、急速に落ち始めている。
神保氏は「LINE問題」の渦中にいる江口執行役員と親しいといわれている
Photo:Jiji Press
それには大きく4つの理由がある。まずは性格の問題。河野氏は能弁でSNSを使いこなしてクリーンなイメージがある。そうしたイメージを集票活動に利用したい若手議員は多い一方で、「一度近づいて人柄に直に触れると、二度と関わりたくないと感じる人も多い」(政治部記者)そうだ。
相談に行っても自分に興味がないテーマだと、スマートフォンを触りながら相手の顔も見ないで話を聞く。機微に触れる内容だったり、自分の持っている情報と違っていたりすると、急に顔を上げ、関係者にその場で電話をかけて確認し、「お前の情報は間違っている」と激高するという。
若手議員に対してだけではなく、官僚に対しても同様で、「安全保障に関する緊急事案で防衛大臣室に報告に行ったら、今、親父と電話中だからに後にしろと言われて取りつく島もなかった」(防衛省関係者)。
親父は言わずと知れた河野洋平・元衆議院議長。「長男の太郎氏に対しては子どもの頃から厳しくしつけてきたため、今でも洋平氏の話を聞くときには直立不動。見方を変えれば親父ファーストのファザコン状態にある」(前出・政治部記者)
人気急落の2つ目の理由はその親父とも関係する。洋平氏が筆頭株主で、弟の二郎氏が社長を務める日本端子というコネクターなどを作っている会社と、中国の関係がどうもきな臭い。
日本端子は中国に子会社を3つ持つが、そのうち1社は中国政府系企業から出資を受けて太陽光発電のビジネスをしている。太郎氏はその日本端子から多額の政治献金を受けている。
もともと太郎氏は反原発派で自然エネルギーの導入拡張を推進してきたが、これでは自身が推進する政策で親族が経営している会社に利益誘導し、間接的に中国マネーで政治活動が支えられているようにもみえる。河野ファミリーの「親中」ぶりに対して与党内では警戒感が強まっているのだ。
同盟国である米国と中国の対立が激化、岸田政権は中国との対峙を意識した経済安全保障政策を重要施策の一つに掲げ、担当閣僚を新設した。また世界の動きは新疆ウイグルにおける強制労働など中国の人権問題を注視し、「対中政策に関する列国議員連盟(IPAC)」では制裁を求める動きが強まっている。
こうした動きを受けて岸田首相は、中谷元・元防衛相を人権担当の首相補佐官に任命した。中谷氏はIPACメンバーであると同時に日本の「対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)」の代表を務める。
しかし河野氏は制裁に反対の立場だといわれている。さらに経済安全保障に対しても総裁選では関連政策を示さなかった。国力を高めた中国は、経済ツールを「武器」に世界を牛耳る戦略に転じている。発展途上国に資金を貸し出し、そのカタとして港湾を取り上げる「債務の罠」や、国連の専門組織のトップの地位を押さえ、国際ルールを自国有利に導く動きなどだ。
こうした動きが安保の概念を変え、伝統的な陸海空の戦力だけでは国を守れないとの考え方が常識になりつつある。政権を担う覚悟があれば、経済安保の問題は避けて通れないはずなのに、河野氏はその政策に関心がないことが保守政治家としては「致命傷」になりかねない。
言ってしまえば、河野氏は外相や防衛相を務めながら「安保音痴」なのだ。最たる例が防衛相時代に地上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」の導入計画を突然やめたことだ。代替案としてイージス艦2隻が新造されることになった。
2016年頃から北朝鮮のミサイル発射が相次ぎ、その対応にイージス艦が追われて海上自衛隊の負担が増した。このため地上で常時監視できるイージス・アショアの導入が決まったのに、河野氏はそれをあっさり反故にした。
この判断によって海上自衛隊の人員不足からくる負担増はさらに高まることになり、構造的課題の解決は先送りになってしまった。そればかりか、「河野氏の思い付きに近い計画変更により、喫緊の課題であった日本のミサイル防衛政策が空回りし出した」と防衛省OBは指摘する。
3つめの理由が主義主張の一貫性のなさだ。総裁選の最中に、河野氏は「原子力潜水艦を保有すべき」との考えを示した。原発反対主義者でありながら矛盾する。こうした発言が今度は河野氏を支持するリベラル勢力の中での信頼感を低下させている。
そして4つ目の理由が、良い「軍師」の不在だ。これが首相の座を最も遠くしているようにみえる。政権トップの座を射止める政治家には運と実力に加えて、知恵を授ける「指南役」が欠かせないからだ。
河野氏が最も頼りにするのが同窓の慶応大学教授である神保謙氏で、河野氏から防衛相時代に「防衛省参与」にも任命されている。しかし、霞が関や永田町での評判は今一つだ。安保の専門家と言われながら、最近は目ぼしい単著も出していない業績に乏しい学者だ。
人脈の筋も悪い。業務委託した中国企業がサーバーを覗ける状態にしていたなど個人情報管理の在り方が問われた「LINE問題」で、政府に「サーバーは国内にある」と虚偽の説明をしていたLINE執行役員の江口清貴氏と「神保氏は親しい」(LINE関係者)と言われる。
2人は共同でいくつかのプロジェクトに関わっており、「神保さんはLINE側から便宜供与を受けていた。さらに長年、中国の大学とも共同研究をしてきた『親中派』で、経済安保政策を強化したら貿易における中国との互恵関係が崩れて日本経済が弱体化すると考えている」(慶応大関係者)と言われる。
その神保氏が入れ知恵した結果、河野氏による「敵基地攻撃能力の保有は昭和の概念」との発言に繋がった、と自民党内ではみられている。
台湾有事が起こった場合、米軍が参戦し、自衛隊も協力することになるだろう。中国は米軍、自衛隊から制空権を奪うため、沖縄の基地などを攻撃してくる可能性がある。日本の領土が攻撃されるリスクが高まっている今こそ必要な考え方なのに、河野氏はそれを否定した。今や河野氏を支持するのは菅義偉前首相と小泉進次郎前環境相くらいだと言われている。首相の座はますます遠のきそうだ。