エレコム会長 葉田順治氏(聞き手/編集長 宮嶋巌)

エレコムに「成長」はあっても「成功」はない!

2021年12月号 BUSINESS [トップに聞く!]

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1953年三重県熊野市生まれ。家業の製材所勤務を経て86年エレコム創業。94年社長。2013年東証一部上場。8期連続で連結純利益の過去最高を更新。今年6月より現職。

――ハーバード・ビジネス・スクールの泰斗、ビジャイ・ゴビンダラジャン教授の『イノベーション創造戦略』(ダイヤモンド社)の監訳を上梓されました。

葉田 教授の別の著書に感銘を受け、「失礼ながら日本の全く見知らぬ一読者ですが、更に教えを請いたい」とメールを打ったら、数分後に「『三つの箱の解決法』(監訳の原題ーThe Three-box Solution:A Strategy for Leading Innovation )を読みなさい」と返信が来てびっくりしました。同書を読むと、順調な事業の業績目標を達成しつつ、同時に劇的な改革も進めたい場合、組織内で相対する行動様式や活動をどう調整していくか…、結果論ではない意思を持った成果を収めた実例が詰まっていました。ビジャイ先生曰く「未来を築く作業は、明日に先送りできない…つまり、過去できあがった信念、仮説、習慣を選択的に手放すことができないと、現在のビジネスと未来の潜在ビジネスの間に壁ができる。これが、『三つの箱の解決法』と呼ぶ考え方の基本である」と。私が翻訳書を出版したくなった所以です。

葉田順治氏監訳

――今年6月に27年間も務めた社長の座を譲り、会長になられた。

葉田 創業から35年、変化の激しいコンピューター業界の荒波にもまれながら、数多くのIT機器関連製品を手がけ、8年前に東証一部に上場しました。この間、私は、我が社の成長を図りたい一心で経営学と真摯に向き合い、特にピーター・ドラッカー氏の「マネジメントとは成果を上げるもの」という名言が、頭に焼き付いて離れません。自らが「一将功なりて万骨枯る」と揶揄されるのは嫌だから、還暦でバトンタッチしたかったが、目に見える成果への思いが強く、簡単に降りられなかった。

――前期の売上高は1千億円を超え8期連続の最高益を更新。創業時はデスクトップパソコンを収納する家具が主力でした。

田 ゼロから起業した私にとって「1千億円企業」の仲間入りは見果てぬ夢でしたから、達成感がありました。しかし、これもすべて時代の変化の波に乗り、何とか成長して来た通過点に過ぎない。この十年間は、そこそこ売上が伸びたものの、見た目の数字とは裏腹に、社内のイノベーションの乏しさに大きな危機感を抱いてきました。『三つの箱の解決法』」の肝は3番目の箱「未来をつくる(新たなビジネスモデルを考案する)」の実践例であり、そこには日本企業が最も苦手とするソリューションが具体的に記されています。会長になった私は「未来をつくる」実践に邁進したいと思います。

現在、エレコムの海外売上高は全体の1%に過ぎません。99%を占める国内の既存事業は、私より10歳若い新社長(柴田幸生)の手に委ね、アマゾンなどECプラットフォームを活用した米欧市場の開拓を本格化する腹を固めました。既にEC専門の製品開発・販売部隊が動き出し、指でボールを転がして入力する「トラックボール」マウスなどが米欧で好評を博しています。ポストコロナの時は今です。

eコマースと並ぶ柱は、世界で年間4億人を超える観客を集めるeスポーツです。現在、全国の家電量販店にはeスポーツコーナーがずらりと並んでいます。私自身が米国へ直接往訪し、現地でM&Aのデューデリジェンスを行うことも考えています。2年後の70歳までに米国市場で足場を築き、「世界のエレコム」を目指して羽ばたきます。

「成功」と思った途端に「成長」が止まる。「成長」することはあっても「成功」することはない。これが、エレコムの不変の原則です。

(聞き手/本誌編集長 宮嶋巌)

   

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