意見広告/「自由貿易」の旗を掲げ続けよう!/田島幸治氏

2021年10月号 INFORMATION [意見広告]
田島幸治(ファーウェイ・ジャパン広報部長)

  • はてなブックマークに追加

分断ではなく話し合いによって解決出来ないのだろうか

春にワシントンで開かれた日米首脳会談。半導体など重要製品の供給網(サプライチェーン)の強化や人工知能(AI)などさまざまな先端技術開発で、両国が協力していくことで一致した。米国は供給網の中国依存を減らすことをめざす。共同記者会見でバイデン大統領は「(先端技術は)専制主義ではなく、民主主義の規範によって管理されている」と指摘した(*1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210417/k10012980401000.html)。米中の対立はさらに激化し、今後さまざまな分野に影響が出てくる。もちろん、日本も無縁ではいられない。

こうした動きは、「足元」の米国半導体産業にとっては決してプラスにはならないようだ。ボストンコンサルティンググループは、グローバルな半導体産業が分断された場合を予想するリポートを公表した。米国の半導体産業が中国市場から締め出されれば、2018年時点で48%だった米国の世界シェアは30%に落ち込むと予想する。

短期的には、韓国が世界の半導体市場のリーダーになり、長期的には中国がその座につくと見ている(*2:https://www.bcg.com/publications/2020/restricting-trade-with-china-could-end-united-states-semiconductor-leadership)

「板ばさみ」に苦しむなら

半導体産業では、設計開発や製造、検査など、それぞれの分野で専門化した企業が世界各地に位置し、グローバルな供給網を形作ってきた。だが、米中対立や世界的な半導体不足を受けて、米国をはじめ欧州や日本、中国など各地域が半導体の「自給自足」をめざしている。

これに対し、TSMCの創業者である張忠謀(モリス・チャン)氏は「時計の針を戻そうとすれば、コストは上昇し、テクノロジーの進歩は鈍化するだろう」と訴えた(*3:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-16/QWCI67T1UM0X01)

米中対立の影響は、ほかの先端分野にも及びつつある。この流れが広がると、どうなるのか。ブルームバーグによると、国際通貨基金(IMF)は米中や欧州の間でテクノロジーの分断が進めば、多くの国で国内総生産(GDP)を約5%引き下げる結果になるという調査をまとめた。これは米中貿易戦争による関税引き上げが世界に与える影響(GDPの約0.4%)をはるかに上回る。グローバルな供給網や市場の分断のコストは非常に高くつきそうだ(*4:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-04-16/QRMSCUDWLU68011)

日本は安全保障分野では米国に依存し、中国とは経済的に強く結びついている。この2カ国の対立が激化し、難しい立場に立たされている。

新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中で経済活動が停滞した2020年。ジェトロのまとめによると、日中の貿易額は前年比0.2%減。日本と世界との貿易額が約1割減となる中、前年並みを維持した。貿易総額に占める中国の構成比は23.9%と過去最高を記録した。また米中間の貿易額は、わずかだが伸びている。こうした数字を見る限り、激しい米中対立の影響はうかがえない(*5-1:https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/114272012ce2ba22.html)(*5-2:https://www.census.gov/foreign-trade/balance/c5700.html)

米国と日本などの同盟国は供給網の「脱中国依存」をめざす。だが、国際経済研究所の伊藤信悟主席研究員は「日米欧企業の中国離れは現時点では限定的」と見る。ジェトロなどによる複数の調査では、日米欧の企業で「生産拠点などを中国以外に移転した/移転を検討」という割合は最大でも15%にとどまる。理由として①中国の産業基盤が厚く、多様で複雑な製品を生産できる能力を備えている②経済規模が大きく、企業の中国内サプライチェーンが「地産地消型」の性格を強めている、という点をあげている。

さらに伊藤氏は日中の経済関係が深まっていることから、供給網の分断が深刻化すると、「日本経済にもたらす影響も大きなものにならざるを得ない」と指摘する。日本の経済官庁幹部も、半導体材料や通信機器の部品を中国に頼っていることから、経済の完全なデカップリングは「至難の業」だと見る(*6-1:『米中分断の虚実』宮本雄二・伊集院敦・日本経済研究センター編著(日本経済新聞出版))(*6-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041500950&g=int)

分断に向けた道のりはかなり遠く、険しいようだ。また仮に実現したとしても、莫大なコストを払わなければならない。そうであれば、私たち日本は米中の板挟みで右往左往するのではなく、今こそ自由貿易の旗を掲げるべきではないだろうか。資源やエネルギーに恵まれない日本は、これまで自由貿易の恩恵を受けて経済成長してきた。少子高齢化が進む中、国外に市場を求める企業にとっても貿易に関係する障壁は低ければ低いほどプラスになる。

自由貿易、各国に利益

一橋大名誉教授の野口悠紀雄氏は「輸出管理を行うのは、国際社会の安全性を脅かす国家やテロリストなどに、武器や軍事転用可能な製品が渡ることを防ぐためだ。そして、それを、国際的な枠組みの下で、抑制的に運用している」と指摘し、輸出管理の強化に向けた動きに警鐘を鳴らす。さらに「国際的な経済取引では、何をしてもよいわけでない。自由貿易の原則がある。そのことによって、あらゆる国が利益を得る」と強調する(*7:https://toyokeizai.net/articles/-/435782)

分断ではなく、話し合いによって供給網の問題を解決することはできないのだろうか。複雑な安全保障上の問題とグローバルな自由貿易を両立させる道を探れないものだろうか。それは日本の利益にも繋がると思う。

著者プロフィール
田島幸治

田島幸治

ファーウェイ・ジャパン広報部長

慶応義塾大卒業。朝日新聞社に入り、経済部や広報部などを経て2020年から華為技術日本(ファーウェイ・ジャパン)広報部長。

   

  • はてなブックマークに追加