コラム:「某月風紋」

2020年12月号 連載 [新連載]

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「北欧モデル」という言葉が政策担当者の口から洩れたときには、警戒が必要だ。北欧諸国の社会保障政策を都合のよいように切り取って、日本の制度を改悪する。

小泉純一郎内閣において総務相兼郵政民営化担当相を務めた、竹中平蔵・東洋大学教授が、ベーシック・インカム(BI・無条件給付の基本所得)による、社会保障制度の再構築を提唱している。年金は、報酬比例部分は残しながら、基礎部分はなくす。生活保護の支給額は、BIを補う範囲にするという。

世界の人口一億人を超える国家のなかで、国民皆保険と皆年金を実現しているのは、日本だけである。国民が営々として築いてきた「財産」だ。

菅義偉政権が発足直後、竹中氏は官邸にまっさきに呼ばれた有識者のひとり。菅首相は、竹中総務相のもとで副大臣を務めた。竹中氏の発言は私人の枠を超えている。

フィンランド政府は世界で初めて国内全域を対象にして、2018年末にかけて2年間にわたり、失業者二千人に月額560€(約6万5千円)を支給する社会実験をした。

『北欧モデル 何が政策イノベーションを生み出すのか』(翁百合ら著・日本経済新聞出版社)は、このモデルは発想法・行動様式と捉えている。異なる制度間の「有機的リンケージ」を図るとともに、「合理性・透明性」を重んじる。

フィンランドのBIの社会実験は、労働組合を運営主体とする健康保険制度と、大学まで教育無償の手厚い教育制度と整合性がある。

日本の介護保険制度は発足にあたって、「北欧モデル」を取り入れたとする政策当局による世論操作があった。「嫁の介護地獄をなくす」はずの日本の制度は自宅介護が中心である。北欧は実は施設介護が主体だ。少子高齢化にともなって、「老老介護」の地獄が列島を覆っている。 

(河舟遊)

   

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