エムバイオテック 代表取締役 松田和洋氏

マイコプラズマ「精密抗体測定法」

2020年10月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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松田和洋氏

松田和洋氏(まつだ かずひろ)

エムバイオテック 代表取締役

1959年山口県生まれ、61歳。85年山口大学医学部を卒業。東京医科歯科大学医学部微生物学教室助手、米ジョンズ・ホプキンス大学留学、国立がんセンター研究所主任研究官などを経て2005年1月にエムバイオテックを設立。08年代表取締役に就任

――御社のコア技術は?

松田 肺炎や血管炎、神経炎などを引き起こす細菌、マイコプラズマの細胞膜にある天然の抗原成分を取り出して精製し、10年かけて構造を明らかにし、さらに10年かけてそれと全く同じ構造の物質を化学的に合成することに成功しました。その後10年の開発研究で、新型コロナウイルス「COVID–19」で話題になっている遺伝子工学の手法で作るものに比べ、ものすごく性能の良い抗体測定法と、非常に特異的な抗体を誘導するワクチンを作る方法を確立しました。抗体測定のほうは微量の抗体を測定でき、診断薬として薬事承認が出ればすぐに臨床で測定できる段階に、ワクチンも臨床試験を経れば2、3年でヒトに使える段階まで来ています。

――これまで発症早期からの確実な診断が困難でした。

松田 マイコプラズマ感染症は発熱、咳、喉が痛いなどの症状が出てから、1週間ほどで気管支炎や肺炎になります。今の診断薬は、抗体価が上がってくるのを摑むのに、発熱から1週間から10日かかります。我々の抗体測定法だと最初の発熱段階でもう抗体価が上がっているのを掴めますので、早期にマイコプラズマ感染症だと確定診断ができ、抗菌剤の投与を始めることが可能となります。

――新型コロナと区別して治療できるわけですね。

松田 マイコプラズマは3~5年ごとに再感染し、日本では年間100万人、多い年は500万人が肺炎になります。米国では200万人がかかり10万~20万人が入院し、その10分の1が重症化し、亡くなったり神経難病などの慢性炎症性疾患になったりします。つまりCOVID–19と似た症状をもたらすものが、それに劣らない大きな波として毎年秋から冬にかけて世界中にやってきているのです。医療関係者は今、COVID–19と一生懸命戦っていますが、伏兵のマイコプラズマに足元をすくわれている可能性があります。複合感染の恐れもあります。ただし、ウイルスであり治療薬がまだないCOVID–19と違いマイコプラズマは細菌で効く抗菌剤があるので、我々が開発した高い精度の抗体測定法できちんと診断し、治療することが重要と考えます。

――どうして株式会社形態で。

松田 日本の社会では新しいものへの理解が得にくく、研究者は2年後のポジションや、国の助成金を得るためにテーマを切り換えざるを得ず継続性のある研究が難しいのです。株式会社だと企業との共同研究や国からの助成金、投資など、協力者の理解を得ながら前に進むことができます。この技術を患者さんに届けるにはこの形が一番可能性が大きいと思いました。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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