装着型「力仕事」支援ロボ開発
2020年9月号
LIFE [ヴィジョナリーに聞く!]
1949年大阪府生まれ、71歳。74年大阪大学機械工学科修士課程を修了し川崎重工業に入社。2005年から14年まで和歌山大学システム工学部教授。15年3月にパワーアシストインターナショナルを設立し代表取締役に就任。
――どんな仕組みですか。
八木 リュックサックを背負うように装着する、作業者の力を支援するロボットです。腰の両側の電動モーターが上半身を起こそうとする背筋の力をアシストします。名前の「パワーアシストスーツ」は私が学会で使い始めた和製英語で、英語圏では「パワードスーツ」とか「エグゾスケルトン(外骨格)ロボット」と呼ばれています。農業の現場では、ミカンや梅、柿などの収穫物や、田植え時の稲の苗床を運ぶ作業はだいたい20kgの物の上げ下ろし作業になります。これを半分の10kgの力でできるよう支援します。10kgだと女性や高齢者でも効率よく反復作業ができます。電源はリチウムイオン電池で1時間の充電で4時間稼働します。お昼に取り替えると1日、作業できます。
――似た製品があります。
八木 私どもの製品の第一の特徴は、角加速度を検知するモーションセンサーを使うことで、装着者の動きに遅れず動くところにあります。荷物を持ち上げる時に一番力がかかるのは持ち上げる瞬間です。その瞬間にグッと力が出るようになっています。メカ的にはヒトの動きを邪魔しない構造になっています。深くしゃがみ込んだり、捻ったりできます。脚の付け根の関節は脚を開いて内転、外転できるようになっていますが、その位置に空回りする軸を入れて、いろいろな方向への脚の動きを妨げないようにしています。
――どうしてアシスト型を。
八木 川崎重工業で産業用ロボットの研究開発をしていました。生産効率を高めるため人間を安全柵の外に排除して高速に動くロボットです。しかし、これからの時代は人間と協調・共存するロボットが役立つようになると考えるようになりました。2005年にロボット研究者を公募していた和歌山大学に移り、まず農作業の現場で高齢者や女性が働ける機会を増やせるよう、作業時の力を支援する装着型のロボットの研究を始めました。農水省からの研究費で100台作って全国各地でリンゴ運びや雪かき、大根の引き抜きなどで使ってもらい、ご意見を聞いて改良しました。
――今後の展開は。
八木 新型コロナウイルス蔓延の中、医療従事者などエッセンシャルワーカーが三密を避けて作業をするには生産効率を高める必要があり、装着型の支援ロボットが活躍すると考えます。感染を防ぐという意味では全自動が良いのでしょうが、そうした現場では、人間の手でやらなければならない作業がまだまだ多いからです。建設作業の現場も同じです。一般大衆向けは大手電機メーカーが作るでしょうから、こうした分野のプロ仕様を狙っていきます。
(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)