立党精神に立ち返る「一律10万円」直談判
2020年6月号
POLITICS [リーダーに聞く!]
1952年島根県出身。東京工業大・院修了。清水建設入社。工学博士。米プリンストン大客員研究員を経て93年衆院初当選(当選9回)。環境相、党政務調査会長など歴任。18年9月より現職。
――閣議決定した補正予算案を土壇場でひっくり返しました。
斉藤 1世帯30万円の限定給付案が発表されるや、党本部に「給付の対象が狭い」「誰がもらえるか非常にわかりにくい」という1万件を超える電話とメールが殺到しました。布製マスクの配布と楽曲と合わせたコラボ動画も不評を買い、内閣支持率も急落していました。
4月14日の昼、自民党の二階幹事長に「30万円は評判が悪すぎる。政権の危機です」と申し上げると「与党の言うことを聞かないからだ」とバッサリ。直後に「所得制限付きの一律10万円給付案」を自ら打ち出された。
――「一律10万円給付」は、御党が最初に出した提案でした。
斉藤「公明党は国民の気持ちがわからないのか」と、怒濤のような抗議が押し寄せました。翌朝の役員会後、首相官邸に乗り込むことになった山口那津男代表の剣幕は凄かった。まるで戦場に向かう武将のようでした。
――山口さんの直談判は安倍首相の心を動かしたが、続く与党間調整は難航を極めました。
斉藤 夕方から4時間も議論したが、岸田政調会長は「一律10万円」は追加補正で行うとして譲らなかった。実は当初、総理も岸田さんも「一律給付」派だったが、財務省の巻き返しにあって「限定給付」に変心し、我が党も渋々呑んだ経緯がある。リーマン・ショック後に定額給付金を配った麻生副総理兼財務相(当時首相)が「失敗を繰り返したくない」と限定給付を強く主張し、「絶対に降りるな」と釘を刺していたようです。
――与党の要求を受け入れ、政府が予算案を組み替えることは、通常あり得ないことです。
斉藤 20年に及ぶ自公連立政権の一大事であり、山口代表は悩みに悩んだと思います。幸い財務・総務両省からも味方が現れ、「予算の組み替えは6日間でできる」「限定給付の実務を担う自治体の現場は収入減の認定を巡り大変な混乱に陥る」と、我々の背中を押してくれました。
山口さんは「財務省に決めさせたら、総理も私も終わりです」「国民か自民党かと問われたら、国民を取ります」と、総理に政治決断を迫ったようです。
――連立離脱をチラつかせた。
斉藤 自公が下野した直後に代表になった山口さんは3年の風雪に耐え、安倍さんと共に政権に復帰した。政府を脅して何かを求める人柄ではありません。自公連立による政治の安定があってこそ、国民が望む政策が実現できます。安倍総理にとって山口さんは7年に及ぶ連立のパートナーであり、気心が通じています。「今、人々がどれほど大きな不安と苦労を抱えているか。全国民が一丸となってコロナ禍を乗り越えるための連帯のメッセージを送りましょう」と進言したのだと思います。「既に決定した予算の組み替えなどあり得ない」と却下するのが普通ですが、柔軟なリアリストである総理は違った。辛かったと思いますが、最長在位の大宰相でなければできない決断でした。
――耐える場面が多かった山口さんが一矢報いた感がある。
斉藤 我が党の立党精神は「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中で死んでいく」――。国民に寄り添う原点に立ち返らねばなりません。
(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)