川下が苦手なら川上に徹せよ
2020年2月号 連載 [編集後記]
記者会見する吉野彰氏
「サスティナブル(持続可能な)社会を実現するのに貢献してくださいよと期待を込められたのが第2の(受賞)理由かと思います。そういう意味で重責を感じています。もし10年後に実現していなかったら、ノーベル賞は剥奪、もしくは自主返納です」
(吉野彰・ノーベル化学賞受賞者、2019年12月20日、日本記者クラブの記者会見で)
吉野氏は今の時代を、化学の世界で言うところの、急激な化学変化が起きる直前の穏やかな時期「インダクション・ピリオド=誘導期」と捉えている。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといったIT革命をリードしたスーパースターがそろって出てきた時期と雰囲気が似ているというのだ。
となると、まもなくサスティナブル社会の実現に向けた技術が花開くことも期待できるが、ではそのIT革命に匹敵する急激な変化はいつ起こるのか||。吉野氏の見立てでは、2025年ごろにAIや車の自動運転の技術など、ここ数年で芽生え始めた各々の技術が合流し、2030年に向けて世界を変えていくという。
その通りだとすると、あとほんの少し待てば、実に明るい時代がやってくることになるが、では最近、米国のGAFAや中国のBATHという川下分野の超巨大企業に押されっぱなしの日本企業はその大変革期に存在感を発揮しているだろうか。
吉野氏はこの点についても確固たる戦略眼を持っているようだ。「川下が苦手なら川上に徹する」「川下のパートナーは日本企業でなくてもよい」と明快に話す。
確かに日本は、省エネに多大に資する窒化ガリウム基板とリチウムイオン電池の研究でノーベル賞受賞者を輩出。センサーや磁石分野の技術も世界の最先端を行く。残るは指揮官。「日本のビルよ、スティーブよ、今こそ出でよ」